母の日


「…で?」
「で、て?」
「甘えてきたの?」
「会ってないから。甘えようもないねぇ」
「あらあら。借金返済しただけなの?」
 白いレースのテーブルクロスに、銀のティーセット。
 妙に整えられたテーブルの中央には、趣味のいいガラスの花瓶に生けられた赤いカーネーションの花束。
 丁寧に淹れられた紅茶を口に運びつつ、肯くカカシの視線の先には、敵になった筈の、彼とアンコの元保護者。
「シズネには当座の生活費を渡したし、今の定宿には部屋いっぱいのカーネーションを送り付けといたけどね」
「…それは…嫌みね?」
「流石、大蛇丸」
「そんな事で褒められてもねぇ」
 にっこり笑うカカシに、呆れた苦笑を浮かべる。
 孝行と嫌みと。忙しい事この上ない。
 とはいえ、どちらも超一流の忍なのだから、正面きって会わなくとも、姿くらいはお互いに見つけてはいるだろう。
 単に、照れくさいだけだと推測する。
「…会えば、『いい加減、帰って来て』って言っちゃうから、そんなトコでしょ」
「言えば良いじゃないの。アタシみたいに表立って敵な訳じゃないんだし」
「アノヒト一応、行方不明なんだけど。まぁ。花見に来てくれたしね」
「甘いわねぇ」
 無理にでも連れ戻せば楽になるところもあるだろうに、そうはしないのだから。
 相変わらず、身内に甘い。
 …特に、あの女傑を甘やかし過ぎている。
 そう、大蛇丸は思う。尤も、その辺は、本人同士も自覚している事だろうが。
「…そぉ?でもまぁ、季節の挨拶なだけだし」
「借金返済が?」
「しとかないと足が付くじゃない」
 仮にも行方不明者が簡単に足が付いたら、放置してる里に問題が出るでしょ。
 くつくつ笑うのは、半分楽しんでいるからだろう。全く、妙な親子関係だと、内心で笑う。
「…まぁねぇ」
「アノヒトはあれで良いの。さて。お茶ご馳走様。そろそろ帰るよ」
「ゆっくりしていけば良いのに」
 立ち上がるカカシに名残惜しそうに言う。里抜けして、敵に廻った事に後悔はないが、思うように会えないのが不満と言えば不満なのである。
「アンコに恨まれたくないから」
「ふふ。カーネーションありがとうって伝えて頂戴」
 母親ではないし、ましてや女ですらないけれど。
 感謝の気持ちは素直に嬉しいのだ。
「はいはい。…来月は来るでしょ?アンコが楽しみにしてる」
「…そうね。行くわ」
 今度は、カーネーションでなくて黄色のバラが、あの超甘党から渡されるのだろう。思っただけで、頬が緩む。
 自身も、敬愛する恩師に同じ物を用意しよう。
「じゃ、伝えておく。またね」
「気をつけて」
「大蛇丸もね」













 本物も代理も義理も偽物?も。

 お母さん、ありがとう。


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