母の日


「…これで、最後!」
 ばさり。
 最後の一束を飾り、辺り一面を埋め尽くした白い花に、イルカが満足そうに呟く。
 慰霊碑と、その程近くにある秘密の場所に運び込んだ、里中の白いカーネーション。
 日々の忙しさに流されて、なかなかゆっくりしていられないから。
 せめてこういう時だけでも、と思うのだ。
「カカシさんが用意してくれたんですよ。本人は赤いのを届けに行ってるんですけど」
 慰霊碑と違う、ただの大石の前に囁く。
 気付く者がいないのが幸いだが。
 ここには、慰霊碑に名の載っていない、カカシやイルカの、大切な人達が居るのだ。
「カカシさんはね、相変わらず忙しいです。でも、今は上忍師も兼任しているので、里に居る時も多くなりました。…あぁ。家の方には、なかなか帰って来ないから、タマには叱ってください」
 花に埋もれて座り込み、自然と笑み崩れながら口にするのは近況報告。
 それも、なるべく楽しい話題をチョイスして。
 告げ口だって、冗談を交えながら。
「ナルトもね。元気にしてますよ。毎日、楽しそうに任務や修行に励んでます」
 頑張りすぎて空回りしている事も多いけれど。
 それでも、アカデミーにいた頃よりも遥かに楽しそうにしている姿は、見ていてとても微笑ましい。
 それが、周囲にも伝わるのだろう。
 ほんの少しずつではあるが、里人達の、ナルトを見る目が変わってきている。
 きっと、今回はこれ以上の朗報はない。上機嫌に微笑むと、立ち上がる。
「これから受付なので、帰りますね。来月はカカシさんが黄色いバラを持って伺うそうです」
 遠くに感じ始めた他人の気配に、早口で告げ、素知らぬ顔でその場を後にした。


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