母の日


「…アンタかい」
「お久しぶり」
「…十年振りか?いーい男っぷりだなぁ」
「そりゃどうも」
 案内されて、賭場の経営者の下へ顔を出した刹那、相手が脱力する。もっとも、賭場を荒らしていた時点で予測は立っていたのだろう。態度と口調を表情が裏切っている。
「アンタじゃ、こっちが丸裸だ」
「…んー。金額判らないんで適当にやったんだけどねぇ」
「そうかい。…ほらよ、証文」
「はい、どーも。じゃ、これ、代金。確認して」
 差し出された紙の束を受け取り、金を渡す。目の前の男が金を数えている間に小さな火遁で紙を燃やす。
「…多過ぎだ」
 机の上に、山と積まれた金を粗方数え終えたのか、深い溜息を吐かれる。
「倍はある。本当に強いな。あの姐さんとはエラい違いだ」
「…アノヒト、ギャンブル運だけはないから」
 いや。一つも当たらない、という点では、百発百中と変わらないと言えるのだろうか。…本人に自覚があるのが哀しい所だが。
「あちこちで借金踏み倒してるらしいな」
「…一時的に今日で完済」
「うちが最後かい。苦労してんなぁ」
 クク。
 喉の奥で笑われるのに肩を竦める。各地の賭場に行っては、とある人物の踏み倒した借金を返して十日あまり。
 賭場で稼いだ分を返済に当てるという、ある意味自転車操業のような行為もこれで終い。
 漸く、肩の荷が下りた気がする。
「どうだろね。ま!また来たらよろしくね。お釣りは、賭場の皆に酒でも差し入れて」
 用は終わったとばかりに手を振って出て行く。
「おう。またな。極上品を振舞っとくよ」
 機嫌の良い声を聞きながら、『また』にならないと良いと思ったのは、本音である。


4← →6