「ちょっとナルト?どうしたのよ?」
薄情…とはちょっと違うかもしれないけれど、忙しくて滅多に一緒に居てくれない上司の悪口を言いながら、三人で仲良く自主トレした帰り道。
唐突に立ち止まったナルトにサクラが声をかける。
「サクラちゃん。…あのさ、アレ、何?」
「アレ?」
「いのん家の」
ぼんやりとした視線の先。ナルトの指が示す所には、同級生の自宅があった。
忍稼業の傍ら、花屋を営んでいる山中家の店先には、この時期赤い花が溢れるばかりに列んでいる。
「カーネーションか?」
「サスケ。カーネーションは知ってるってばよ。違くて、何でいっぱい売ってんの?」
サクラと同じくナルトの視線を辿ったサスケの呟きに振り向くと、もどかしそうに疑問をぶつける。
確かに、ガーデニングを趣味にしているナルトが、カーネーションを知らない筈がない。理解出来ないのは、花屋に溢れている理由だろう。
「母の日だからだろう」
「母の日?」
「…そっか。アカデミーではやらないから、ナルトは知らないわよね。あのね、母の日って、お母さんにありがとうって言う日よ」
ほぼ、初めて聞く言葉に疑問符を浮かべるナルトにサクラが頷きながら説明する。
アカデミーに通う子供には、ナルトと同じように親のない子供も多い。それ故に、わざわざ『母の日』を教える事はしていない。
ただし、里自体には既に根付いている習慣の為、花屋では当たり前のようにカーネーションが列べられるし、他の店でもさり気なく取り扱われている。
「いつ?」
「五月の第二日曜。赤いカーネーションをあげるの」
「死んでる場合は白いヤツだ」
「…へー」
「ナルトもあげれば?」
感心するナルトに、思いついて言ってみる。
知らないだけで、意外とイベント好きなナルトにも参加させてみたいと思ったのだ。
「かーちゃんいないってばよ?」
「いるじゃない。イルカ先生」
「へ」
当然の疑問にあっさり答を与えて。
咄嗟の思いつきにしては、かなり上出来だと自画自賛する。
だって。
あの優しい元担任をナルトが母親みたいに慕ってるのはよく、知ってる。
それに。
「喜ぶと思うけど」
貰う方も喜んでくれると思うのだ。
「え」
「良いんじゃねぇか?」
予想外のサクラの言葉に、関係ないと思いかけていたナルトは戸惑ってしまう。
おまけに、思わぬサスケの後押し。
どうして良いか判らない。
「…え、あ。えと。じ、じゃあ、サスケも一緒にあげるってばよ!」
「あ?」
「な?一人じゃ恥ずかしいし!…ダメか?」
慌てた口から出た言葉は、ナルト的には妙案に思えた。
自分とはちょっと状況が違うけど、サスケだってお母さんはいないのだ。
だから、サスケが一緒なら、恥ずかしいのは半分になるし、サスケが嫌がれば自分もやらない。
そして、サスケは多分やらない。
「…仕方ねぇな」
ナルトの予測をあっさり外して、頷くサスケに目を見開く。
それを横目に、サクラが内心で笑う。
ナルトは気付いてないけれど。
サスケは結構、ナルトに弱い。少なくとも、ナルトとサクラにだけは、かなり優しい。
本当なら、いつものサスケなら、やらないような事も受け入れてくれる。
「なら、皆で予約して行かない?私もママの分、予約するつもりだったし」
話を変える半分、提案する。折角なんだから、行動は速い方が良い。
「賛成!」
「…ち」
一旦、心を決めると思い切りが良くなるナルトに、サスケが口だけ舌打ち。
タイミングよく帰宅してきた、いのを捕まえ、三人仲良く、首尾よく、花束を予約した。
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