鎮花


「すげぇ〜」
「きれー」
「いい匂い」
「広いなぁ」
「里にこんなトコあったんだぁ…」
 非常に珍しく、時間通りに現れたカカシに子供達が連れて来られたのは、里と外との境界に近い、森の一角。
 死の森が隣接している所為で、滅多な事では子供を近付けさせない為、全員が初めて訪れたらしい。
 一面の桜に目を見開き、呆然と口を開ける姿にくつりと笑い、パン、と手を合わせる。
「あの真ん中の桜の下にイルカ先生がいるから、荷物を預けに行っといで。そしたら昼まで解散。桜の続くところならどこまで遊びに行っても良いから」
 一際大きな桜を指差す。
 樹の根元に大きな茣蓙が敷き詰められ、樹に寄り掛かる様にしながら手を振る元担任目掛けて、歓声を上げて走り出す子供達の後をゆっくりと追いながら、周囲に気配を散らす。
 まだ、自分達以外の気配はない。
 約束の時刻までは、まだ、時間もあるのだ。
 それまで、のんびりしていれば良い。
「先生、行って来ま〜す!」
「…迷子にならないよーになぁ」
「はーい!」
 もどかしく荷物を預け、弾ける様に散っていく背中を眺めつつ、先客の横に腰を下ろした。
「場所取りご苦労様」
「茣蓙を敷いただけですよ」
「良い天気だね」
「そうですね。暖かいし」
「少し、寝ても良い?」
「どうぞ」
 承諾を得てころりと横になる。目を閉じた刹那、つんつんと髪を引くのに薄く目を開く。
「…頭は、ここ」
「…重いでしょうに」
「良・い・の。枕があったほうが寝易いでしょう?」
「痺れても知らないよ」
「そしたら落とします」
「…なるべく我慢して」
 示す場所に素直に頭を預け、改めて目を閉じる。当たり前に柔らかく髪を梳く、優しい手の感触を楽しみながら、意識を過去へと飛ばし始める。









 ここは、約束の地。


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