「…やれやれ。この程度のトラップじゃあ、イルカが怒りそうだね」
見慣れた、一種、芸術作品とまで言えそうなイルカのモノと真逆の、粗雑なトラップをするりと避けて、目的の屋敷に入り込んだカカシが苦笑する。背後には焼けた惨状。これでもかなり気を遣って進んだのだが、今の、腕の振り一つで雷を落とす我が身を完璧に制御するのは、随分と難しいらしい。
まあ、それも、自分と土地神のシンクロ率が高い証左なのだろう。
実際、自分は思いの外、焦っていたのだから。
「さて。この部屋からイルカのチャクラと媛の気配を感じるんだけど」
屋敷の奥、無駄に豪華な部屋の前で立ち止まる。途中、念の為にと座敷牢もどきの部屋へも立ち寄ってみたが、既に人の気配はなかった。予期せぬ自然災害に、殆どのものが避難しただろう屋敷の中で、人が居るのはおそらく、ここだけなのだろう。愛しい気配と、見知った気配。
…そして、知らない気配。
「…派手に行こうかねぇ」
くい、と口布を顎まで引き下げると、人の悪い笑みを浮かべる。遠くから近付くアスマの気配に密かに笑い、一呼吸。
「さあ。婚礼の神事を始めよう」
手に馴染むチャクラ刀を握り直すと、雷と同じ、電極の火花を宿したまま閉じられた戸を両断してのけた。
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