────────────── …恋をした
一生一度の恋だった
気付くことすら出来ない程に
それは身の内に存在していた
傍に在るのが当然で
それ以外の場景は要らなかった
気付くのいつだって後から
聡明で賢明な彼の媛は
笑顔と声で心を常に隠していたから
失くす直前に想い知らされ
手にした刹那に指の隙から流れ落ちた
甘露の味は忘られない
心は二度、偽れない
如何なる罰も気にならない
誰にも譲れる訳がない
共に共に共に
────── !
「…いたた…」
内から湧き上がる痛みに、カカシの柳眉が寄る。
自分の感情と同じ…しかし、どこか違う痛みはかなりきつい。それは、急かされる痛み。自身ではどうにもならない事に対する、苛立ちの篭った責め苦。
「…ちょっと、我慢しててくださいよ」
口の中で呟く、宥めの科白。
文献と、今、身の内に在る状態でしか知らないが。
木の葉の土地神は、沈着冷静に見える容姿と裏腹に、とてもとても短気らしい。代わりに、天真爛漫に見える媛はかなり知的で冷静らしいけれど。
カカシが沈着を旨としている所為で、その怒りが辛うじて押さえられている程に。
逆に、穏やかでおっとりしているようで実は短気なイルカは、その冷静な媛のお蔭で何とか我慢が出来ているのだろうと、容易く予測できる。
「…割れ鍋に綴じ蓋」
互いの伴侶を表現する、ぴったりの言葉を見つけてくつりと笑うと、背後の気配に肩を竦める。先刻まで気配を殺して付いて来たのに、焦れたのかもしれない。
「…カカシ!カカシ、待て!」
「待たなーいよ。急いでんの」
よく知る声にのんびりと、返事する。
「急いでるったって、再考の余地…っつうか、この任務自体が変じゃねぇかよ」
「それでも、火影サマの命令よ」
文句を言われる筋合いじゃない。
私情に体裁を与えただけだとしても。
正式な任務なのだから。
今の自分は、彼は、本当に限界に近い。
焦り、心配して声を荒げる友人の…護るべき民の声を雑音と取りかねない位には。
「ふざけんな!どう考えたって、正気の沙汰じゃねぇだろう」
そして、遠くから近付いて来る敵意のある気配が、近くの声に対する苛立ちに拍車をかけてくれる。味方を真の意味で味方に引き込む方が得策か。溢れる他人の想いを、理性の言葉で説得してみる。
でなければ、本当に同調してしまう。
愛してる愛してる愛してる
お前が居なければこの世は何の価値もない
護ってやる、意味もない
押さえ込みながらの深呼吸二つの後、かけられた言葉に、目を、閉じる。
「納得出来る理由を説明しやがれ!」
|