…どうしている、だろうか。
音にするのは憚られる本心が、吐息と共に漏れそうになる。
可愛いあの子は。
あの子の仲間達は。
予定日を過ぎて帰らない自分をどう思っているだろうか。
「…心配かけちゃってるかな」
二、三日位なら問題はない。任務にアクシデントが付き物なのは身を持って知っているだろうから。そしてそれを、彼らの年下の仲良し達に教えているだろうから。
しかし、である。
今回の任務内容は彼らも知っていて。
アカデミーの新学期が始まる前に帰里出来る予定だったから、受理したような依頼なのに。
それが、こんな長い期間が掛かるようなアクシデントがあるなんて絶対の想定外である。おまけに里に連絡すら取っていない。
子供達が不安がっているのが目に浮かぶ。
特に、金の髪の愛し子。
自分は、あの子の現上司である彼と共に、あの子の数少ない寄る辺である事を自負している。それはつまり、自分の不在はあの子供の安寧を壊す事に直結しているという事でもある。
これが苛立ちを呼ばずにいられようか。
もう一つの気がかりの方はいい。
それには、絶対の信頼と自信がある。
だからその面では落ち着いていられる。自分の身の内に在る、媛神の存在がその安心感を増やしてくれてもいる。
「…媛が不安がってたら、引き摺られてるもんねぇ…」
言ってしまえば根幹は同じ血筋。
同調率が高ければ高い程、神の情動に自分の感情・感覚は支配される。
それがこんなにも凪いだ気持ちでいられるのは。
混乱一つなく、子供に想いを馳せられるのは。
降臨している媛の心が凪いでいるから。
彼女は夫神に絶大な信頼を置いているのだろう。
不安一つなく、逆に苛立つイルカを慈しむように抱いていてくれている。そんな気配が確かにある。
さもなくばきっと、身体を休める事すら出来ず、今頃、相手…イルカ的に敵…の自由にされてしまっているのが想像に難くない。それだけ、飲料中に施されている薬物も頻繁に置かれる香も強いのだ。
劇薬と言って良い。
上忍程には薬物に耐性のないイルカがここまで持ち堪えているのは、媛のお蔭なのである。
そこまで考えて、一つ頭を振って立ち上がる。
開け放した窓に向かって大きく深呼吸をすると、下手に体力を消耗させないように無駄な思考を止めようとした。
「…ねぇ、アンタ、腹、減らないの?」
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