「…なぁなぁ、カカシ先生、今日は帰ってくるかな」
「…判んない。いつまでかかるか、言ってなかったし」
「…どっちにしろ、里外に出るにはこの大門しか使わないからな。張ってたらいつか通るだろ」
大門の支柱の根元にナルト達が座り込みを始めて早一週間。単独任務に出ている上司は未だ帰って来ない。
いつもなら、文句を言いながらも修行に明け暮れている彼等なのだが、今回はどうも事情が違うらしい。カカシの帰里が待ち切れないのか、大門から離れない。
夜になっても帰ろうとしない為、始めは色々と言ってきた門番達も、必死な表情で梃子でも動かない子供達を苦笑と共に受け入れた。夜にはサクラを帰宅させる事を条件に、危険がない限り、黙認と言う形を取っている。
「おい、坊主共。メシ食うか」
昼近く、一人の忍がひらひらと大きな風呂敷包みをちらつかせる。上忍師が留守の所為で子供達に任務はないものの、放っておけば日がな一日飲まず食わずで座り込んでいるのだ。ついつい構いたくなるらしい。
まして、一般には知られていないものの、外敵と一番に接触する確率の高い門番担当には、暗部関係者が多く配置されているのだ。表面的に『暗部出身』であり、また実情として『現役暗部隊長』であるカカシの溺愛する弟子達を、彼らが無視できる筈もない。
いきおい、日替わりで子供達の指導を請け負っているような形になってしまっていた。
「これ食ったら組み手付き合ってやるぞー」
大門が気になって食事どころではない子供達に、交換条件を提示すると、ぱ、と顔を輝かせる。一対一の組み手なら、他の二人は門を見張ってられる所為だろう。
更に、食事中は子供達に代わって門番の一人がカカシの帰里を見張る役目を請け負ってやると言えば、空腹を我慢していた子供達が食いつかない訳がない。
「良いんですか?」
「ありがとー、おっちゃん!」
「…おっさん、暇なのか?」
「…」
「…おっちゃん?どーしたってばよ?」
がくりと項垂れる姿に、ナルトが首を傾げる。無邪気に放出される、正直に過ぎる子供の言葉は、時に大人を手酷く傷つける。特に、カカシと同世代で独身者なら尚更。
「いや…」
「おっちゃん、急に腹痛くなったってばよ?」
「…頼むから、おっちゃんは止めて…」
内心で実年齢を叫びつつ、泣きたくなったのは言うまでもない。
「変なの」
「あ。これ美味しい!」
「どれだってばよ?」
「これだ。こっちも美味い」
何だかんだ言いつつ、子供の好みそうなおかずばかりの入った弁当を、嬉しそうに頬張る様子に苦笑する。結局、何を言われても容認してしまうのは、保護者の庇護の下、素直に成長しているのが見て取れる彼等の美点なのかもしれない。
「…こら。野菜を避けるな。お前もトマトばっか食ってんじゃねぇ。カカシさんに叱られるぞ」
さり気なく嫌いなおかずを避ける二人を小突く。甘やかしたい気持ちも多々あるが、その辺は保護者に叱られるのでほんの少し厳しく。甘やかす以上に『大人に気に掛けて貰う』のが必要な子供達なので。
「う〜」
渋々と、それでも苦手なおかずを口にする二人を褒めてやる。微かに誇らしげな表情になるのがまた、何ともいえない気分にさせられた。
「…何、お前ら。面白い所でピクニックしてるね」
「カカシ先生!」
「ただーいま」
のんびりと、気配もなくかけられた声に、全員が一斉に振り返る。いつもの帰里より、ほんの少しだけ、疲れているように見える彼に、ナルトが飛びつく。
「カカシ先生、カカシ先生、あのさ」
「ん?…まず、そのメシ食べちゃいな。それから、ちゃんと聞いてやるから」
口の中の物を飛ばす勢いで話しだすナルトをやんわり窘め、子供達の中に腰を下ろす。そして、無意識だろう。子供達がぴたりと保護者にくっつくのを見て内心で笑う。絶対の信頼がそこにある。
「カカシ先生、私達、お願いがあるんです」
「お願い?」
子供達の、常とは違う表情に眉を寄せる。
不安げな、辛そうなそれは、天真爛漫を絵に描いたような彼らにはひどく不似合い。
それだけでカカシの留守中に何かがあった事が知れる。安心させるように、三人の頭を順にくしゃりとやり、黙って話を促した。
「あのね ──────────── 」
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