邂逅
おまけ篇


「カーカーシ、さん」
「んー」
「あーん」
「あー」
 あれから。
 何度も弁当を作ったのだが。
 無事にカカシの口に届いたのは、カカシの師匠が四代目火影を継承してからだった。それまで、帰里の度に師弟の命掛けの鬼ごっこが繰り返されていたのを憶えている。
「味はどうです?」
「美味いよ」
「良かった」
 ふわりと笑う。五歳の頃からの修行の成果は、それなりにあるらしい。
「…何をしとるんじゃ、お主らは」
「…書類決裁しながら食事」
「お仕事の邪魔にならない程度に食事の手伝い」
 火影執務室で繰り広げられる、場違い甚だしい甘い空気に耐え切れなくなった三代目が呆れ気味に口を開く。
 火影の執務机の横に設えてある机は、随分と年季が入っていて、そこに向かって書類を捲るカカシは堂に入っている。大きさは違えど、二十年近くも前から定位置になっているとなれば、それも頷ける話で。
 また、その横に椅子を用意し、カカシの決裁の隙を縫って食事を口に運ぶイルカの姿もまた、大きさこそ変わったものの、頻繁に見られる姿ではある。
 あるが、しかし。
 二人の醸す雰囲気だけが、年経る毎に甘さを増していくのだ。慣れているとはいえ、思わず胸焼けを起こしかける三代目である。
「…まぁ、良い。カカシよ、それが終わったら一つ頼まれて欲しい事があるんじゃがな」
「何ですか」
「西の森のトラップが老朽化していてな。『真珠』を連れてかけ直して来てはくれんか」
「承知。この山が終わったら行きます。…イルカ、準備しといて」
「はい。…でも、これ全部食べて戴いてからでも良いですか?」
「うん」
 促されるままに口を開けるカカシにくすりと笑う。






 何年経っても忙しいのは変わらない人ではあるけれど。
 少しでも役に立っていられるのなら。
 どんな努力も出来るのだ。


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