邂逅


「…結局、執務室のソファで簡単に仮眠だけ取って、先生の手伝いをしたんだよな…。やれば速くて確実なクセにサボり癖がついてたから…」
 暗部の任務の直後、疲労したまま更に疲労させられた事を思い出す。ほんのちょっとでも目を放すと逃げ出そうとする為、自分は当然だが、暗部、三代目、三忍までをも動員して、二十四時間体制で見張っていたのだ。それでも不眠不休で三日以上かけて書類を仕上げ、そのまま、その期間に溜めてしまった任務を遂行するべく、結果的に休みもなく里外へ出て行く…と言うのを繰り返していた気がする。
「…マメに差し入れに来てくれてたから良かったけど。そうじゃなかったら会えず仕舞いって事も…」
「…センセ。カカシせんせぇ」
「…あ。ゴメン。何」
「…ん。んーと、さ」
「やっぱり、話せない事って多いのか?」
「いの達のパパ達も何か難しい顔して黙っちゃうって…」
 四代目と旧知の上忍を親に持つ子供達も、彼らと似た質問をして親を困らせた経験があるらしい。その友人達と同じ事をカカシにしてしまったのではないかと不安そうに見上げてくる子供達に苦笑する。
「まぁ、なんと言うか、色んな意味で凄い人でね。どの話をしたら良いのか悩んじゃうんだよ」
 くしゃりと頭を撫でてやれば、漸く安心したように息を吐く。
「俺さ、俺さ、何か、いろんな秘密があって話してくれないのかと思ったってばよ」
「うん。何か、アカデミーで習ったのは簡単な事だけだし。カカシ先生なら教えてくれるかと思ったのに黙っちゃうんだもん」
「まぁ、色んな事知ってるかーらね」
 力が抜けたのか、気を取り直したのか、嬉しそうに言い出すのをゆったりと応える。自分からより、具体的に訊かれた事を答える方が楽である。
「やっぱり強かったのか?」
「そーだね。強かったよ」
 敵には比類なく。あの人が派手な傷を受けた姿は、終ぞ見た事が無かった。
「好きな食べ物は?」
「一楽のラーメン」
「俺と同じだってばよ!」
「あー、そうだね。野菜も嫌いだったし」
 放っておけば毎日でも。そして、野菜をコソコソと避けては周囲に叱られていた。
「へー。あ、じゃあ、名前は?」
「そういえば、アカデミーでは習わなかったな」
「…本名はね、ナイショだけど。シメナワって呼ばれてたよ」
 その名は。特に名字はトップシークレット。尤も、四代目と言えば通じるので必要が無いとも言えるのだが。それでも愛称くらい教えてやっても問題は無いだろう。
「へ」
「なんで?」
「首に注連縄巻いてたから」
 手振りで形状を教えてやると、顔を見合わせて噴き出す。
「…そういや、木ノ葉の黄色い閃光って二つ名があったって聞いた事あるぜ」
「…コピー忍者とどっちがカッコ良いと思う?」
「…どっちもヤかも」
「聞こえてるぞ、お前ら」
 コンコンコン、と各自の額を小突いて。笑いながら謝る子供達に肩を竦める。形状をそのまま伝える所為か、確かに忍界にはネーミングセンスがない。
「ちょっとずつ、色んな事教えてやるよ。すーっごい人だったからね。まぁ、まずは、四代目も好物だった一楽のラーメンでも食いに行こうか」
 野菜炒め付で。
 悪戯っ気たっぷりにそう告げると、下から歓声が聞こえた。


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