邂逅


 ───────── …そして、忍界大戦直後の、混乱期の風物詩。




「眠…」
「隊長隊長、おねむですか?」
「おんぶしましょうか?」
「子供扱いしないで…て、それでもイイかも」
 もう、何度目になるか判らない欠伸を噛み殺すカカシを、隊員達が揶揄う。その言葉に反論する以上に魅力を感じたのか、微妙にうっとりしつつ、更に一つ欠伸を増やす。
「本気で限界っぽいですなぁ」
「ま、里に戻れば少しは休みが貰えますよ」
「んー…」
 面さえなければ目を擦っていてもおかしくない。いつになく反応の鈍いカカシに隊員達から苦笑が漏れる。
 無理もない。
 ここ数ケ月というもの、まともに休んでいないのだ。大の大人…否、暗部の精鋭ですらキツくて耐え難い激務を、本来なら下忍、もしくはアカデミー生であっても可笑しくない年齢の少年の肩に課せられていては。
 如何なフォローも追い付かない程疲労していて当然。
「あー。寝ながら走りそう」
「仮眠取りますか?」
「大丈夫。早く報告したい。後、ちょっとだし」
 ふるふる頭を振って、辛うじて意識を保つと速度を増す。とにかく、速く里に戻りたいらしい。
 火影に、口頭でも報告さえ済ませてしまえば、ゆっくり休める筈なのだ。
 …多分。
 遠くに里の大門を見つけ、薄く笑うと暗部用通用門へと大きく迂回した。




「…なんっか、嫌な予感がするんだけど」
「…そうですなぁ…」
 些か覚束ない足取りで、それでも火影執務室前まで辿り着くと、軽く眉を寄せる。本来より、室内に人の気配が多いのだ。
「…先生ー、ただい…」
「…うわっ。隊長っ」
「お帰りですかっ」
「…え、あの、四代目は今…」
 癖で気配を消したまま扉を開ける。室内には、慌てた風情の隊員達。
 刹那、すぅぅ、と目が据わる。目に映るのは、書類が積み上げられたまま空になっている執務机。今の今まで自身を取り巻いていた眠気が晴れていくのを実感する。
「…あんの馬鹿師匠…」


 一気に鮮明になる意識。
 じわりと漏れ出す殺気。
 びくりと、背筋を正す隊員たち。


───────── …全隊に通達。どんな手を使っても構わない。捕獲して来い」
「…た、隊長」
「休みの者も呼び出せ。右腕と頭さえ無事なら他はどんな状態でもいい。…見つからないなら、三代目に要請して水晶球で居場所を探して貰え」
「…あーらら」
 隊員達があらぬ方向を向いて苦笑する。


捕獲成功者には特別手当と休暇一週間くれてやる!


 声変わり前の、澄んだ高い怒声が、執務室内に響いた。


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