「なぁなぁ。四代目ってどんな人だったってばよ?」
いつものようにDランク任務を終えた帰り。遠くに顔岩を臨む道すがら、ナルトに袖口を引っ張られる。
「へ」
唐突なその問いに、思わず片手の愛読書を落としかけ、子供達に気付かれないよう、こっそりと持ち直す。
「先生の先生だったんだろ?」
「あー…。まぁね」
否定のしようのない事実に曖昧に肯く。別に隠していた訳ではないので、その辺は大丈夫。
「だから!聞いてみたいってばよ」
「カカシならよく知ってるんだろう?」
「やっぱり、習った通りに凄い人だったんですか?」
「凄い…ね」
ついに来たかと思いつつ、無意識に視線を泳がせてしまう。
『四代目とは如何なる人物か』
ナルトを受け持って以来、恐れていた問いの発露。
一般的にアカデミーで習ったり、噂や伝説として囁かれる四代目像を告げるのであれば、然程困ったりはしない。
だが、そこは『四代目の直弟子』であるカカシに、『カカシの直弟子』から向けられる問い、である。そんな四角四面な内容を聞きたい訳ではないだろう。
身近な、それこそ身内としての…自分達にとってのカカシに対するような話を聞きたいのだろう。
逸らす直前に目に入ってしまった、キラキラの期待に満ちた瞳の数は六つ。その純粋な輝きに、胃がしくりと痛む。
凄い人だったのは事実である。
────────────────────── …色んな意味で。
尊敬していたと言って良い。
────────────────────── …一応。
勿論、慕っていた。
────────────────────── …嘘じゃなく。
それでも、である。
子供達に尋かれると返答に窮してしまうのは何故だろうか。
確かに、四代目に関する事には九尾関連の、所謂機密事項も含まれる為、話す内容も一部制限される。
だが、それが問題なのではない。そんな部分には大した問題はない。
問題は。
カカシを含む、四代目の関係者が自主的に口を噤む箇所にこそある。
ましてカカシは師弟関係にあった為、関係者の中でも特に、その量が多く、質も半端がない。
良くも悪くも規格外な相手を思い浮かべ、珍しく明確な溜息を吐いてしまう。子供の夢を壊さず、正しい人物像を伝えるには何を話したら良いのだろうか。
「先生?」
「あー。うん」
不安そうに見上げてくる子供の頭をかき混ぜながら、意識を過去に飛ばした。
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