第参話 快晴
何かで読んだの。
心の動きは空に似ているって。
だったらね?
だったら。
曇りや雨や嵐より。
絶対絶対、晴れの方が良い。
特に、大好きな人はね?
何時だって晴れやかに笑ってて欲しいよね。
だから。
今日も、空模様は快晴!
「何かさ、イルカ先生、綺麗になったよね?」
「何よ、サクラ。いきなり」
担当上忍たちの所為で突然手に入った休日。自主トレもそこそこに、揃って飛び込んだ、カフェテラス。
店オススメのパフェのスプーンをひと舐めして振り回すサクラに、いのが眉を寄せる。
「んー。ふとそう思った。前から可愛くて綺麗だったけど。最近特に」
「あ。それはあるかも」
パクリ。
甘くてふわふわの幸せクリームがたっぷり乗ったスプーンを口に運ぶ。
「ヒナタはどう思う?」
「えっと…。笑顔が違うかな、て」
彩りよく詰まったフルーツの中から、散々迷った挙句、黄桃のシロップ漬を選んだヒナタが微笑う。
「…ん、うん。何て言うか…。幸せそうだよね。前は時々寂しそうだったけど」
「それそれ!ヒナタよく見てるね!そうよ。最近、いっつも笑ってるの!」
「あ。そうかも。アカデミーの時はさ、たまに泣きそうな顔してたよね」
職員室や誰とも話していない所で。
ほんの時々、切なそうな表情を覗かせていた恩師を思い出す。自分達の前では決して笑顔を絶やさなかっただけに、尋く事も出来なかったけれど。凄く気にかかっていたのだ。
それが、最近はない。
会う機会が減ったとはいえ、以前には毎日見ていた相手の事。微妙な変化に気付かない訳がない。
無理のない、憂いのない、本当の笑顔。
見る度に自分達まで幸せになれそうなそれ。
「恋人でも出来たのかしら」
「かな?でもデートしてるトコとか見ないよね?」
可愛らしく首を傾げながら溶けそうなアイスを口に含む。冷たさと甘さが口の中に広がって、うっとりとしてしまう。
「それに、先生に彼氏が出来たらナルトが大騒ぎしてるわよ」
あの、イルカ先生大好きっ子な同級生が騒がない筈がない。…となると、恋人が出来たとは考えにくい。
「じゃ、好きな人ってのは?」
「ありかも。そしたら誰かなぁ?」
「先生と仲良しの男の人?」
「んー。アカデミーの先生達はないよね」
「ないない。後は受付で会う人か、私らの先生?」
「よく話してるのは、先生達と特上の人だよね」
「えー。誰だろ。やっぱ最近知り合った人よねぇ」
前からの知り合いで該当しそうな相手は皆無。そうなると、あまり合わない人か、最近になって知り合いになった筈の人だろう。
「サクラの先生は?」
「カカシ先生?…んー。かな?あんまり話してるトコ見た事ないけど」
「でも、よく一楽に一緒してるじゃない」
「ナルト付よ」
「まぁね。でも他の人はそれもなかったし」
肩を竦める。
どうしたって、誰かと二人きりでいる姿を見た事がないのだ。ナルトが一緒もアリなのではと思ってしまう。少なくとも、他にはない快挙なのだから。確信が持てない所為で腕組みして考え込んでしまう。
「ヒナタぁ?笑ってないで一緒に考えなさいよぉ」
二人の会話に口を挟むのを止めてにこにこ笑っていたヒナタをつつく。
「え…え」
「私達ばっか考えてるじゃない!ヒナタも!」
「そう!イルカ先生の彼氏当てって、重大任務なのよ」
笑いながら詰め寄る二人に、ヒナタが思わずたじろぐ。
「わ…わかんないよ」
真っ赤になって、スプーンを片手に慌てたように首を振ると、少し思案顔になる。
「…あの…ね?」
何かを思いついたのか、ゆっくり口を開くとふんわりと笑う。それを黙ったまま促して。
「イルカ先生がいつも笑っててくれたら誰でも良いなぁ…て」
「あー」
「まぁね」
嬉しそうに告げられてしまえば、頷くしかない。実際、誰でも良い事には違いない。あの笑顔が曇りさえしなければ。
「…んー。あ。イルカ先生発見!」
「どこ?」
「あそこ」
通りに目を向けたいのの指先に、他の二人の視線が重なる。
「…あ!逆方向からカカシ先生発見!」
ふと、逸らした視界に、サクラが現上司を発見する。ゆるりと近付いた二人が、穏やかに柔らかい雰囲気で挨拶を交わすのは、別に普通だったけれど。
誰より可愛い恩師が、見た事ない程の鮮やかな笑みに彩られる姿を、
ポーカーフェイスなサクラの上司がいつになく優しい眼差しになるのを、
三人はしっかり目に焼き付けて。
「…二人揃ったトコロで、インタビューしよう!」
「ついでにカカシ先生に奢らせよう!」
「賛成!」
何となくの結論は出てしまったものの、お年頃の好奇心が収まった訳ではなく。顔を見合わせて笑い合う。
「…せーの」
「イルカ先生ー!カカシ先生―!一緒にお茶しましょー!」
大好きなの。
アコガレなの。
お手本なの。
貴女が幸せそうだと、私達も幸せなの。
だからね?
いつだって笑ってて。
晴れてる姿を見せていて。
その為なら、上司の一人や二人、ハメてみせましょう!
|