第壱話 春嵐
夜中、目が覚める。
耳に入るのは、窓に叩きつけられる風と雨の音。
揺れる窓枠に躯が震え、自分の腕を巻きつける。
今日も、独り。
静まり返った昏い室内に、煩い程に部屋を揺らす外音が響く。
酷く苦手で、躯が勝手に怯えだす。
独りきりでやり過ごすのは、とても怖い。
でも。
無意識に捜すぬくもりは、今は決して手に入らない。
解ってる、から。
忙しいのも。
逢えないのも。
誰に責がある訳ではないから。
これは、我侭。
気付かれてはいけない、我侭。
それでも。
がたつく窓を。
吹き荒ぶ風を。
叩く雨を。
闇い部屋を。
言い訳に変えて言葉が零れだす。
「…呼ん…で」
名前を。
「触っ…て」
躯に。
「抱き…締めて」
息も出来ないくらい。
「…って…来て」
今すぐに。
──────────────── …さん…
溢れだす想いは唯一人へと向かう。
伝う涙に手を添えて、暗闇の中、顔を覆う。
声に出来ない一つの名を、心うちで幾度も叫ぶ。
あぁ。
嗚咽は風に紛れてしまえ。
涙は雨に流れてしまえ。
憂いは闇に隠してしまえ。
朝には。
そう、朝には。
いつもの自分に戻るから。
お願い。
今だけは貴方を呼ばせて。
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