家族旅行


「カカシ先生、寝てる?」
「起きてるよ」
 気持ちのいい風の中、木陰で寝転んでいたカカシをサクラが上から覗く。無造作に顔の上に乗せていた新書版の本をズラし、目を見せてやるとサクラが安心したように横に座る。
「疲れて寝てたら悪いと思って」
「気持ちいいから転がってただけだぁよ」
 柔らかく笑い、半身を起こすとサクラの頭をかきまぜる。
「サクラは岩登りしないの?」
「さっきしたもの。今は代わりにイルカ先生がやってるわ」
 肩を竦めるサクラに、冷えた飲み物を渡す。それを両手で受け取り、嬉しそうに喉を潤すと、ほ…と息を吐く。どうやら、かなり喉が渇いていたらしい。
「何読んでたの?」
「んー。普通の推理小説」
 興味深々の表情を見せるのに苦笑を一つ落として本を見せる。ぱらぱらページをめくる音を聴きながら、ゆっくり伸びをした。
「こんなのも読むんだ」
「何でも読むよ」
「ふぅん。あ。ねぇ、聞きたい事があるんだけど」
 きょろ、と辺りを見回し、近くに誰もいないのを確認してから言い出す。首を傾げ、上目に見る仕草は無意識だろう。
「今回の演習…。どんな意味があったの?」
 視線で促せば、思案げに尋ねてくる。
「チャクラコントロールを身につけるだけなら、こんな所まで来る必要ないでしょ?」
「…俺の任務の都合…」
「逆でしょ」
 嘘ではないものの、どこか曖昧さを含ませた答をすっぱりと切り捨て、鋭い洞察を見せるサクラに苦笑する。
「知りたい?」
「ダメなら我慢するけど」
「情操教育」
 疑問はあっても、答を見出すには材料が足らなかったのだろう。素直にぶつけてきたサクラに易く答えてやる。
「経験は何にも勝るからね」
「…それって」
「家族を知るのも修行だぁよ」
 新人下忍の中であの二人だけが家族を知らない。
 サクラ達が意識せず持っている親への甘えを知らずにいる。それを体感させるのが目的だが…。正直、上手くいったのか、カカシにも判らない。こればかりは本人たちのみぞ知る所だろう。
「何か、判ったよーな。判らないよーな」
「ま!楽しめたなら、それで良いよ」
 微妙な表情を浮かべるサクラに笑う。結果はさておき、取り敢えず彼等が楽しければ良いのだ。
「…物凄く楽しんでると思う」
「俺も絵日記楽しみだし」
「え」
 項垂れ気味に出された、呆れた溜息を逸らすように告げた一言に、サクラが顔を上げる。
「罰ゲームも考えてあるし」
「ご、合格点何点?」
「八十五」
「高っ」
 心持ち青くなる顔が笑いを誘う。おそらく、今晩は三人で絵日記の見直しだろう。
「戻ってきたら、帰ろうか」
「…呼んできます!今日はバーベキューしようよ、先生!」
「いーよ。何でも」
 弾むように駆け出す姿に穏やかな笑みを乗せると、空を仰いだ。


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