「…はいはい。言質は取りましたよ、奥さん」
全く緊張感の感じられない、緩やかな声音が逆に恐怖を伴って、その場の空気を凍らせる。
「か…カカシ…」
「お帰りなさい、カカシさん」
「ただーいま」
ぎくりと身体を強張らせる男を余所におっとり甘く、言葉を交わす。
「さて。里抜けと密書強奪で指名手配受けてるけど。おとなしく縛につく気はない?」
だるそうに振り向き、のんびり問う。一見無防備に見える所作だが、その実、隙はない。身動ぎもままならず、息を飲み込む。
「いつから…ここに」
「最初から」
顔色をなくす相手にさらりと応じる。
「暗部に居た自負と俺への対抗心から、日中の好機ではなく夜間を選ぶのは自明の理だったからね」
待っていれば良い。
そう続け、軽く手を挙げる。刹那、暗闇から一つ二つと蒼狗面が浮かびあがる。その数、九。それが意味するのはただ一つ。
「蒼狗正隊が…何故…」
茫然と呟く。
それは、彼が憧れてやまず、また、認められない恨みから抜けた、かつての所属。その本隊。
「何故だ?元暗部のお前が何故!正隊を率いる!」
如何に里の認める実力者と言えども、暗部を退いた者に許される行為ではないと、声にならない叫びをあげるのを受け、カカシの表情が変わる。茫洋として掴み所のないそれから、余裕に満ちた、支配者のそれに。
「そりゃ…。俺が狐面を所持してるから」
くつり。
嗤うカカシの言葉に愕然とする。それは、木の葉の上忍なら誰でも知っている事柄。一時でも暗部に居たなら尚更の…。
「銀…隊…長…?」
戦意を喪失させるのに余りある事実を前に、男の全身から力が抜け落ちた。
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