「ここか」
長くなった日も落ちきり、辺りも暗くなる頃。薄闇に紛れて現れた男が呟く。
家族連れをターゲットにした滞在型リゾートの名に相応しいのか否か。ここは、夕闇と共に人が疎らになる。
特に、日中は一番騒がしいとされる巨大施設の裏にあるコテージは、料金が高い所為か人通りはない。
自身に都合の良い状況に嗤う。
「まさか九尾が現れるとはな。密書が奪還された時はどうしようかと思ったが…」
ククク。
喉の奥を鳴らす。国を左右する密書を奪い、里を抜けたまでは良かった。
だが、受け入れ先と接触している間に何者かに奪還されるとは。何の為にこんな、バカらしい場所に身を潜めたのか判らない。自身の慢心が招いた失敗ではあるが、男は気付く事を知らず、舌打ちをする。
しかし、である。
彼は見つけたのだ。
こんな、バカバカしい場所で、密書以上に価値ある物を。
九尾の器を。
一般人の護衛か何かで来ているのか、見かけない大人と子供二人と一緒に居た。…もっとも、子供二人は九尾とスリーマンセルを組んでいる下忍の確立が高いが、それでも。
数日の間に調べた限りでは、上忍師のカカシの姿は滅多に見かけない。特に、夜はいない。コテージにはガキ三人と大人…それも一般人らしい女が一人。これ程の好条件はない。
実際、女が忍である可能性を考慮すれば、日中の人ごみに紛れて捕獲するのが上策ではあるのだが。
カカシの庇護下の領域での奪取。
それ以上に愉快な事はないだろう。
暗部上がりの、しかも里髄一と謳われる最強の忍の顔に泥を塗れる。その強烈な誘惑は、同じく暗部に在籍していた彼の心を堪らなく擽る。
…否。
同じ暗部と言えど、彼は、終ぞ正規部隊に配属させられる事はなかったのだ。実力はあるのに、決して評価されなかったのだ。その思いが、彼を里抜けに導いたのだが。
ともあれ、これは自身の実力を里内外に知らしめる好機。
収まりやらぬ笑いを噛み殺し、目前のコテージを見遣る。
多少のトラップなぞ、大した事はない。その慢心が、驕りが、彼の限界だと自覚する事無く、標的の元へと跳躍した。
刹那、庭の戸が開く事を欠片も予測せず。
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