家族旅行


「…今日も、とーちゃんは、夜に、仕事しに行っちゃいました、まる…と」
「ナルト。その締め、もう三日連続」
「だって。嘘は書いてないってばよ?」
「確かにな。昼は俺達の相手して夜はいない…。寝てないんじゃないか?」
 リビングの床に座り込んで課題の絵日記(と言う名の報告書)を書く三人をキッチンから眺めて、小さく笑むと、持ってきた麦茶をテーブルに置く。
「お茶だよ」
 呼ばれて嬉しそうにテーブルに着く三人は、夜も遅くなってきたのに未だ変化を解いていない。このまま朝まで持つようになれば大したものだが、流石にそこまでは無理だろう。それでも、初日は夕方まで持たなかったのだから、素晴らしい成長と言える。
「明日、何処行く?」
「行ってないトコあったっけ」
「顔岩は」
 絵日記は片付いたのか、麦茶を飲みながら翌日の計画を立て始める。
 潜入演習という題目故に、カカシに出された課題は報告書作成。形態こそ外見と設定に併せて絵日記だが、内容に不足があってはいけないと、毎日必死に調査しているらしい。
 勿論、他の客に不審に思われないように適度に遊びながら…である。
 その所為だろう。毎日、夜の内に綿密な打ち合わせをしているらしい。
 まぁ、イルカの目から観ると、見事に穴だらけの計画なのだが、これも修行の一環と、口出しはしない…と言うより、助言は止められている。
「まだ…かな」
「じゃ…」
「打ち合わせも良いけど、そろそろ部屋に戻ったら?」
 目的地も決まり、盛り上がりかけた所にイルカが告げる。
「夜中には仕事、終わるって言ってたから。寝ておいた方が良いんじゃないかな」
 怪訝そうに見つめる六つの瞳に言い聞かせる。
 つい、ほんの少し前から、首の後ろにちりちりとした違和感がある。ゆっくり近づくそれに、子供達が気付く前に、彼等を隠さねばならない。
「今日終わるの?」
「もうないの?」
 イルカの言葉に目を輝かせて覗き込んでくる。微笑んで頷くと、慌てて拡げたままの絵日記を片付けだす。
「おやすみなさい!」
 現金にもばたばたと出ていく三人を気配を消した状態で追い、部屋に入ったのを確認するとポケットに隠していた封印札をドアに貼りつける。三人同じ部屋なので、朝まで出られないくらいは問題ない筈。
 安眠し易いように廊下に香炉を駄目押しに置き、そのままリビングに戻った。
 徐々に強くなる違和感に眉を顰めつつ、飲み差しの麦茶を下げ、自分用にハーブティを淹れる。無意識にリラックス効果を求めてしまったのかもしれない。
「予定通り、か」
 吐息で湯気を曲げながら呟く。
 全てはカカシの手の中。
 いつもながら、その策略には隙がない。呆れと誇らしさの混じる息を漏らし、ゆるりとガラス戸に向かう。
 庭に異物の気配があった。
 念入りに張り巡らせた仕掛けに獲物がかかったらしい。増えた気配に口角を上げ、軽い変化を解くと戸を開けた。


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