家族旅行


「…あれ?アイツらは?」
 風呂上がり。戻ってきたリビングに子供達が居ないのに不思議そうに呟く。
「もう、部屋に下がりましたよ。課題もあるし」
「課題って、絵日記?」
「はい。結構大変みたいですから」
 イルカの返事に軽く笑う。絵日記と言う名の報告書作成に、子供達は四苦八苦しているらしい。
「それに、もう体力も限界でしょう?」
「確かに」
 朝から晩まで。丸一日変化をしているのは、それなりにチャクラを消耗する。要領の悪い子供達なら、より一層。そろそろ、体力切れで眠る頃だろう。
「夜まで持つようになっただけ進歩かな」
「そうですね…て、カカシさん、髪、ちゃんと拭かないと風邪ひきますよ」
「じゃ、拭いて」
 軽く腰を浮かせたイルカの前に座り、頭を預ける。甘い笑みの吐息が耳をくすぐり、次いで柔らかく髪を混ぜる感触に気持ち良さそうに目を閉じる。
「…正直、こんなに徹底的にするとは思わなかったんですけど」
「何が?」
 苦笑気味の呟きにうっすらと目を開ける。
「演技しなくて良い…なんて」
「あぁ。だってその方が自然だしねぇ」
「まぁ、それはそうですけど」
 二重に演技するのはあまりに不自然。それならば、逆に本物をそのまま持ち込んだ方が良い。それだけの事。
「それより、ちょっと厄介な頼み事しても良い?」
「何ですか?」
 申し訳なさそうに告げる声に首を傾げる。
「密書の方、先に見つけちゃってね。それは良いんだけど、ナルトが目をつけられたみたい」
 肩を竦める。特定の忍術以外あまり上手ではないナルト。人に隠れて一瞬変化を解いたか、チャクラを漏らしたか…。
 いずれにせよ、正体がバレたと考えた方が良い。少なくとも、あの子が営利誘拐の対象に該当するとは考えにくい。
「ナルトが?」
「昼間、薄い気配があった。こっちの事は気付いてないみたいだけど」
 日中、自分が現れたと同時に消えた不穏な気配。人物の特定は出来たが、場所の特定まで出来なかったのが気にかかる。
「判りました。新作、試して良いですか?」
「良いよ」
「見つけたらどうしましょう?」
「んー。一応気付かないフリで」
「難しいなぁ」
 一端、気付いた気配に無関心でいるのは、これで結構難しい。
「ま、相手は上忍以上だから」
「カカシさんに慣れてるからあまり意味ないですよ」
 通常で気配の薄いカカシの気配を読むのに長けたイルカにかかれば、並の上忍の気殺など、物の数ではないのだ。まして、気を張っていたら尚更。思わず、二人で苦笑してしまう。
「そっか。あぁでも、ナルトを餌にする気はなかったのになぁ」
「バレたら張り切っちゃいますよ、きっと」
「あ。それは絶対回避。…参ったなぁ」
 困り切った顔で頭を掻くカカシに、柔らかく微笑んだ。


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