家族旅行


 カカシの規則正しい心音を聞いていた所為か。それとも感情を爆発させた所為か。ことん、と寝入ってしまったナルトを抱え直し、ゆったり口を開く。
「サスケ」
「…寝たのか?」
 ずっとナルトの真後ろで息を殺して待っていたサスケが肩の力を抜いて近寄ってくる。微妙な距離に居た為、ナルトに気付かれないよう立ち去る事も出来なかったのだ。
「もう、熟睡」
「…なら、起きたら飲ませとけよ」
 平和な顔で眠るナルトを覗き、買ってきた缶の汁粉を地面に置く。
「で、こっちは俺のだからな。飲むなよ」
 言いながら隣に置いたのはスポーツドリンク。そのまま、踵を返すサスケに不思議そうに声をかける。
「サスケ?」
「…コーヒー買って来る。無糖で良いんだろ」
 背を向けたまま、不機嫌に告げるサスケに笑う。
「ありがと。優しいなぁ、サスケは」
「うるせぇよ、クソ親父!」
 反射的に振り向いて怒鳴って。
 その内容に慌てて口を押さえると走っていく。耳の後ろまで赤く染めたサスケを瞬き二つで見送り、盛大に笑う。
「…かーわいー。いーなー。二人共、正式に引き取ろうかな〜。どう思う?」
 堪え切れない笑みのまま、誰もいない空間へ話しかける。
「…お好きに。我々からすればどちらも貴方の御子ですから」
「そっか。…お前が来てるって事は密書は無事に届いたんだ?」
「はい」
「判った。引き続き焙り出し頼むね」
「承知」
 中空を見つめ、一瞬だけ鈍く目を光らせると、一転して柔らかい表情を浮かべ、ナルトの位置を直す。
「…お前らには、髪一筋、傷付けさせやしなーいよ」


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