「な〜にやってんの?」
サスケがいなくなって数分。ぼんやり家族連れに視線を流していると、不意に日が陰る。それと同時にかけられた、のんびりした声音に慌てて顔を上げた。
「あ…カ…違。あの、任」
「仕事」
「し、仕事、は」
言い直された単語を素直に使い、尋ねる。驚き過ぎて顔は赤くならなかっただろうか。
「んー。半分てトコ」
「え…じゃあ」
「ま!今日は終わり。…で?ナルトは何してたんだ?」
「べ、別に何もしてないってばよ。サスケがおしるこ買って来るし」
「ふぅん」
不自然に慌てるナルトの表情をちらりと見遣り、更に周囲に視線を配ると、ナルトに判らないように苦笑する。軽く息を吐くと、怯えたように身体を硬くする子供の横に腰を下ろし、そのまま、気安く掴んで向かい合わせに抱え込んでしまう。
「…ぅわ!」
懐に抱えられるなんて、殆ど経験がない。慌てて逃げようともがくものの、所詮大人と子供。大した抵抗にもならず、逆に更に抱き込まれてしまう。仕方無しに背中に手を回し、シャツをきゅう、と掴んだ。
「ナルト」
「な、何だってばよ」
「呼んで」
顔、見ないから。
そう続けられて硬直する。顔を見ては絶対に言えないのを、見透かされていた事に。
「ナルト」
柔らかく促され、息を飲む。
「ナールト」
「…ん」
「聞こえない」
おずおずと口篭るように言えば、ダメだしが出る。一つ、深呼吸して覚悟を決めると、顔を見られないように首筋に顔をくっつけ、口を開いた。
「と…とーちゃん」
「もっと」
「とーちゃん」
「うん」
「とーちゃん」
「うん」
一度呼んで箍が外れたのか。首まで赤くしながらも、カカシの促すまま、呼び続ける声に何度も相槌を打ってやる。不安気に掴まれていたシャツが強く握られるのにうっそりと笑み、背中を軽くあやすように叩く。
たかが演技。
されど。
憧れのものに無防備に手を伸ばす事に躊躇する位には成長しているのだ。そして、日常と切り離して楽しめる程、大人にはなれないのもまた、事実。
だから二人の少年の困惑は仕方がない。
「ん〜。良いなぁ」
「何が」
思わず呟けば、照れ臭そうな声が届く。
「ずっととーちゃん、て呼ばれてみたかったんだーよねぇ」
「変だってばよ」
「そお?」
「フツーの若いとーちゃんは嫌がるってばよ」
「あぁ。なら変で良いよ」
だからたくさん呼んで。
くつくつ笑いながら告げると閉口したのか、息を飲むのが判る。
「…あんまりたくさん呼ぶのはダメだってばよ」
「なんで?」
「帰っても呼んじゃいそうだから」
拗ねたように口を尖らせるナルトに破顔する。それは、無意識に出された本音。
カカシを『父親』と認識し、欲してる証左。
こんなに嬉しい事はない。
「良いよ、呼んで。返事してやる」
優しく請け負うとしがみつく手が強くなる。
「…モテなくなっても知らないってば」
「お前らと奥さんにモテればイイよ」
「…忙し過ぎのとーちゃんはイヤだってばよー…」
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