家族旅行


「…と。ナルト!」
「…ふぇ?あ。サスケ」
「何呆けてやがる」
 豆の里の中心部にある公園の芝生で、座ったまま動かなかったナルトにサスケが呆れた口調で問う。周囲にイルカとサクラが見あたらないのは、多分、二人で買物にでも行っているのだろう。もう一人の保護者は、いつもの通り深夜任務へ出てしまっているのだが、まだ戻ってないらしい。
「呆けてないってばよ!」
「じゃあ、何してたんだ」
「…観察…」
「観察?」
 むくれた顔で言うのに首を傾げる。
 この公園は、豆の里内の休憩所を兼ねて居る所為か、確かにそこここに人は居る。特に、身長制限や年齢制限でアトラクションに乗れない、小さな子を連れている家族が多い。人間観察は忍の必須、と言われているが、声をかけても気付かない程に夢中になるものだろうか。声をかける直前に見てしまった微妙な表情も気になって、つい促す。
「…俺ってば、この演習下手なんだってばよ」
「下手?」
「どーしてもちゃんと呼べないってばよ。だから、観察して練習しようと思ったってば」
「…本人相手に練習すりゃ良いじゃねーか」
「それが出来たら観察してない」
 拗ねた口調のナルトに息を吐く。何の事はない。演習上の役に徹し切れなくて、大人二人を上手く呼べずに悩んでいるらしい。
「サスケは!平気なのかってばよ?」
「…俺も呼べてねーよ」
 声を荒げるナルトに吐き出す。
 里を出てから。
 二人揃って一度も成功していない。
 呼ぼうとすると、何故か声が詰まるのだ。お蔭で、無視はされるは自分達はどもるは、散々なのである。
「里でも練習したのに」
 口を尖らせて膝を抱える。演習内容や身分詐称の設定に驚いたのは確かだが、内心、凄く嬉しくて。家でたくさん練習したのだ。

 それなのに。

「別に嫌って訳じゃねーのに、な」
 ナルトは言うに及ばずだろうが、サスケにしても決して嫌な訳ではないのだ。むしろ逆と言って良い。にも関わらず、二人共上手くいかないのだ。
「…情け無いってばよ」
 演習一つちゃんと出来ない。こんな事じゃ、呆れられてしまうかもしれない。そう思うとますます気が滅入ってしまう。
「…何飲む」
 俯いてしまったナルトに聞く。同じ悩みである以上、慰めるのは不可能で。仕方がないから話を変えようとする。
「泣いたら水分が減るだろ」
「泣いてないってばよ」
 涙声の反論に説得力はないけれど。一応、そこには触れない事にする。今は何を言っても無駄だろう。
「何飲むんだよ。買って来てやる」
「…おしるこ」
「判った。買って来るからここにいろ」
「うん」
 不機嫌な顔で走っていくサスケになんとなく笑う。あれは、怒ってる顔じゃない。それ位は判る。多分、気を使わせたのだ。嬉しい反面申し訳なくて、更に落ち込んでしまう。
「せぇっかく、皆で豆の里に来たのに。ずっと一緒の演習なのに。楽しいのが半分になっちゃうってばよ…」
 当り前に両親を呼ぶ子供達を見つめながら、小さく呟いた。


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