家族旅行


「着いたぞ」
「こ…ここって」
「最近噂の…」
「知ってるなら話が早い。火の国が木の葉全面協力の下、総力を上げて作った、滞在型リゾートランドだ」
 大きい目を更に大きくする子供達に平然と告げる。
「豆の里で判る」
「忍犬のビィクンと落ちこぼれアカデミー生の渋茶。妹の紅茶がいるんだってばよ」
「私、薄荷ちゃんが好き〜」
「…かなり知ってる訳ね」
 きゃいきゃい話だす子供達に肩を竦める。
 目の前には高い壁で外部から隔たれた、今回の目的地。
 その名を『落花生・豆の里』。カカシは知らなかったが、何かのテーマパークになっているらしい。
「『落花生』は子供に人気のアニメですから」
「あ。そうなの」
「結構、面白いですよ。原作者が原作者ですし」
「誰?」
「…後で教えてあげます。ほら、三人とも行こう?」
 はしゃぐ子供達を促し、微かに困ったように笑うイルカに首を傾げながらも、嬉しそうに入場門────── 入里門と言うらしい────── へ向かう四人の後に続く。
 急かされつつ手続きを終えれば、子供達が弾かれたように中へと走っていく。リゾートランド内は、木の葉の里をモデルにしているのがありありと判る光景が広がっていて、原作を知らないカカシは思わず笑ってしまう。
「先に家に行くぞー」
 視界から子供達が外れない内に声をかける。
 滞在型と謳っているのは伊達ではないらしく、入里門で渡されたコテージの鍵は人数分。どうやら、これが入場券と言うか、施設内のフリーパスの代わりとなっているらしい。これさえあれば、施設内のアトラクションは無料で楽しめると説明された。要するに、この里?の住人になって楽しめという事なのだろう。三代目の余計な思惑があるのは判っているが、この現実離れさが子供達の演習に向いていそうで、中々の選択だったと、妙におかしくなる。
「どこ?」
「ほら。住所と地図」
 目を輝かせるナルトに、よく出来た住民票を渡す。
「あ!サスケ!サクラちゃん!猿影屋敷の裏だってばよ!」
「嘘!」
「屋敷には入れるのか?」
「猿…?」
 聞き捨てならない名称に眉を寄せる。すると、一応原作にも精通しているらしいイルカがさり気なく教えてくれる。
「…豆の里の里長の事です」
「伝説の三忍もいるかな」
「…」
 予想外の名称に、今度は黙ったままイルカを見詰める。
「えっと、がま君とまー君とかっちゃんと言って…」
「…なんか、段々判ってきた気がする。…なぁ、もしかして先生とかも出てくるの?」
 苦笑気味に教えてくれるイルカに深い溜息を吐き、子供達に向き直ると思いついた事を訊いてみる。
「当たり前だってばよ」
「女の先生?」
「渋茶の先生は、そうだ」
「…サンゴかアコヤって言わない?」
「当り!アコヤ先生よ」
 …阿古耶貝の方か…と思いつつ沈黙する。
「よく判ったな」
「すっげー可愛いんだってばよ。ぽやぽやで」
「でね、内緒の旦那様がいるの。凄くカッコ良いのよ」
「…へー」
 少しずつ、酷い頭痛がしてきた気がするのは、どうにも気のせいではないらしい。返す相槌に力がなくなっていく。
「クエビコか。滅多に出てこないが、ビィクンの飼い主だな」
「暗部なのよね」
「だから、誰にも内緒なんだってばよ」
 口々に言い合う子供達の説明にくらくらと眩暈を起こす。
「…イルカ」
「…はい」
────────────── …原作者が誰だか、なんとなく判った」
「…でしょうね」
 目を合わせず言い合う大人二人の間に、表現しがたい微妙な空気が流れた。


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