家族旅行


「…四、五…と。はい。任務拝命します。この三つは明後日までに終わらせて、報告書を持って来ますから。残りは随時、式か忍犬に届けさせます」
 項垂れている三代目を前に、てきぱきと任務依頼書を確認する。子供たちとの演習の合間にこなす予定の物が三つ。その前に終わらせるつもりの物が二つ。
 どれも、暗部の任務である。
「…うむ…」
「じゃ、俺はこれで」
 返事もやっとの三代目に無情にも言い置き、さっさと踵を返してしまう。
「…カカシ!」
 はたと頭を上げた三代目が、出て行こうとするカカシを呼び止める。戸に手をかけようとしていたカカシが、しみじみと溜息を吐きながらもゆっくりと立ち止まった。
「『特別演習』中ですからね。曾孫とか言い出さないでくださいよ」
 三代目の表情を正しく理解したカカシが機先を制す。
「…しかしじゃな…」
「子供連れ」
 恨めしそうに笠の下から見上げてくる三代目に冷徹に答える。言いたい事はよく解るが、カカシの方には三代目を甘やかす気は全くない。
「お主が気にするタマか」
「俺は気にしなくても、向こうが気にします」
「ナルトに弟か妹をじゃな…」
「…一応、『唯の』師弟ですから。それに兄弟代わりならサスケと木の葉丸が居るでしょ。もう一度怒鳴られたいの?」
 言い募る三代目に冷ややかな視線を向ける。とても里長に対する態度には見えないが、一旦任務を離れてしまえば、唯の祖父と孫の関係になってしまう二人ならではである。
 ただし、事情を知らない一般の忍達が見たら、どんな反応があるか怖いところではあるが。
「…クソ孫」
 不貞腐れた顔で煙管を叩く。その姿に、わざわざ口布を下げて、にっこりと、嫌味なまでに爽やかな笑顔を向ける。
「お褒めの言葉、有難う御座います。良いデショ。ちゃんと行くんだから。往生際が悪いですよ」
「煩いわい」
「はいはい」
 無駄話は終わりとばかりに、ひらひらと手を振ってカカシが退室し、無常にも戸が閉まる。
「…あの、四代目の直弟子のくせに、なんであんなワーカホリックに育ったんじゃ…」
 カカシの気配が消えた途端、めそめそと咽び泣きを始める三代目の横に、ずっと傍観していた相談役のホムラとコハルが現れる。
 駄々っ子のような祖父としっかり者の孫息子(血の繋がりは全くない)の仁義なき言い争いを、途中まで面白可笑しく見守っていたのだが、スリーマンセル時代からの幼馴染の想いも解るだけに顔は同情に満ちていた。
「…むしろ四代目の弟子じゃったからじゃろ。カカシん坊が勤勉なのは。反面教師と言うヤツじゃ」
「ワシはイルカが産んだ、曾孫の顔が見たいだけなのに…」
「あー。よしよし。泣くでないよ、三代目」
 ぽんぽんと気休めに肩を叩いてやる。
 ここで、三代目の言う孫夫婦もその子供も、所詮血の繋がりはないだろう、と正論を言えば、涙ながらの抗議が待っているので、懸命な相談役二人は、敢えてその辺は口を噤む。
 ともあれ、えぐえぐと泣き始めてしまった三代目に、その経緯から全てを目撃してしまった暗部の隊員達は笑いを抑えるのに忍の能力をフル活用しなければならない程、苦労したらしい。


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