誓約-うけひ-


「何?」
 軽く首を捻るカカシさんに、顔中の熱が上がりそうになるけど。
 これだけはちゃんと言わないきゃ。
「一つだけ、どうしても約束して欲しい事があるの」
「うん。良いよ」
 ほんの少し緩められた腕に手を置く。微かに震えてるのが自分でもはっきり判る。
 カカシさんは、いつも優しい約束をくれる。そして、それを絶対に叶えてくれるから。
 こんなお願いはいけないのかもしれない。
 でも。
 もう、他には何の約束も要らないから。
 お願い。
 これだけは叶えて。
「…カカシさんで居て?」
「イルカ?」
「…どこに行っても良い。どんな大怪我をしたって、…それこそ、どこで死んでも構わないから。お願い。カカシさんのままで居て」


 曲げないで。
 心を殺さないで。
 思うままに生きて。
 里の為に生きると言うならそれでいい。
 仲間を護って死ぬならそれで構わない。
 傍に居て欲しいなんて言わない。
 帰ってきてなんて、望まない。


 貴方が貴方である事。


 それ以外は何も要らない。

「…敵わないなぁ…」
「カカシさん?」
 困ったような、それでいて照れ臭そうな苦笑に首を傾げる。
 …やっぱり、ダメな事を言ったのだろうか。
「…誓うよ」
 小さく、でも強い声が耳を打つ。
「如何なる場合でも。この命が消える、その瞬間まで。俺は俺である事をイルカに誓う」
「ありがと…ございます」
 優しくて。それでいて真摯な視線に射抜かれる。
「だから。イルカにもお願い」
「はい?」
「…一秒で良い。俺より長く生きて。どんな状態でも必ず帰るから。魂魄が分かれても、必ずイルカの元に帰るから。ただいまって言わせて」
 笑みまで浮かべたその言葉には気負いも強制もない。
 …この人はきっと、思うよりもずっと死に近くて。生死の境をたくさん見ていて。
 だから、当り前にこんな事を言う。
「お願い」
「…ずる…い」
 帰ってきて欲しい、なんて望まないって決めたのに。
 そんな事、言ったらダメだって。そう思ってたのに。
 これじゃあ、望んでしまう。
 必ず戻って欲しいと、願ってしまう。
「ごめんね?でも、そうしたい。だから。お願い」
 困った顔で望まれる事を拒否するなんて出来る訳がない。本当は、何よりも一番望んでいた事なんだから。
「ずるい…です」
 カカシさんはずるい。いつだって欲しい物をくれ過ぎる。
「うん。ごめん。で、聞いてくれる?ダメ?」
「…」
 喉が詰まるから、声は出ない。首を横に振って答えにする。
「ね。泣いてても良いから答えて?俺の望み、叶えてくれる?」
 声は。やっぱり思うように出なくて。腕を伸ばして必死で首に縋りつく。
 そして、一生懸命頷いて。
 ちゃんと伝わるように願う。
「ありがと。絶対帰るから、ずっと迎えてね」
「…は…い」
 掠れた声で返事をすると、強く抱き締めてくれた。




3← →5