誓約-うけひ-


「イルカ?大丈夫?」
 ぺちぺちと頬を撫でるように叩く感じがして目を開けると、心配そうに覗き込んでるカカシさん。
 …やっぱりカッコ良いなぁ。
「平気?水飲む?白湯が良い?」
「お水で…」
 コツンとおでこをくっつけて来るのに笑ってみる。
 あんまり、心配かけちゃダメだよね?
「ん。判った」
 軽く頷くと、そっと抱き起こしてくれる。
 …また、膝の上だったんだ…。
 なんだか、昨日からずっと抱っこされてる気がする。嫌な訳はないけど、ちょっと恥ずかしい。
「ん」
 ぼんやりしてると、顎に手がかかって少しだけ上を向かされる。
 途端、冷たい水が口の中に入ってきた。
 ただの水なのに、凄く甘い。そういえば、昨夜もこうやってお水飲ませてくれたっけ。
「もっと飲む?」
「も、へーき」
 首を振って断ると、安心したような溜息。
「びっくりした」
「ごめんなさい」
「ま、突然だったからね。先刻の話、覚えてる?」
 膝から寝台に下ろされ、下から覗かれる。
 先刻のって…。
 あ。
「はい。覚えてます」
「そっか。…でね?イルカの意見が聞きたい」
 凄い真面目な声と表情。
「カカシさんは」
 先に聞かないと。カカシさんは絶対、自分の事は後回しだから。
「…俺が中忍になった時言った事、覚えてる?」
 カカシさんが中忍なった時?あの時言われたのは…。



『あのさ。俺が上忍になって、イルカが中忍になったら』
『うん』
『お嫁さんになってくれる?』
『うん!…じゃなくて…はい』
『…ありがと』



 結婚って言葉が判らなかった私に、困った顔しながら言い直してくれたんだよね。
 嬉しくて、即答したのを覚えてる。
「はい。勿論」
「嫌じゃない?今でも有効?」
「当り前です」
 嬉しくて嬉しくて。両親に確認されるまで、誰にも内緒にしたくらい。
「じゃ改めて。俺と結婚してくれますか?」
「はい」
「全然、傍に居られないし、怪我多いし、いつどこで死ぬか判らないけど」
「そんなの」
「一緒に生きてくれる?」
「今更、です」
 今までだって、そうだった。一生、そのつもりだった。だから、そんなのは今更。もうずっと前に決めたから。
 他の人は、嫌。
「ありがと」
 ぎゅう、て抱き締めてくれる腕に安心して。
 思い出す。
 一つだけ。
 一つだけお願いがあった事。
 いつか、こんな風に言われる事があったら、言おうと思ってた。…そうじゃなかったら、おこがましくて言えないような事だったし。
「あの…あのね?」
「何?」
「お願いがあるんですけど」
 小さく深呼吸して。目を合わせた。




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