「…つくづく、余裕がないよねぇ…」
「な…に?」
しみじみと呟くと、腕の中の存在が身動ぎする。
掠れた声が、物凄く色っぽい、なんて本人、気付いてないんだろうが。
「今も昔もイルカに夢中、と言ってるんです」
「…嘘吐きは舌抜かれちゃいますよ?」
しれ、と言ってのけると、軽く笑われる。本当、なんだけどねぇ。
「…あ。ねぇ、カカシさん」
「ん?」
何かを思い出したらしい。
寝返りを打つついでに人の上に乗って、嬉しそうに人を押さえつけて、斜め上から見下ろしてくる。
…重さが心地良い上に、眺めも良いんだけど。言ったら拗ねるだろうな。
「今日ね、ほんの少しの時間だけど、職員室で赤ちゃん預かったの」
「…うん」
「乳幼児を抱っこする機会なんて滅多にないから、皆で盛り上がっちゃって…」
…乳幼児ねぇ…。最近、Dランクばっかだからマメに触ってる気がするなぁ。
何せアイツらに任せておくと壊しかねない。
流石に、首が据わってるのしか来ないから、その辺は安心だけど。
「…欲しくなった?」
「え」
「赤ん坊。欲しくなった?」
訊いてみると、かぁぁぁ…と音が聞こえるくらいに顕著な反応。
うん。素直で可愛い。
「…ち…ちょっとだけ…」
「…作る?子供」
「え、えぇ?──────── い、良いの?」
提案してみると、驚きに目を見開くものの、嬉しそうに頬を緩める。
…やっぱり、欲しいんだ。
「良いよ。…まぁ、ちょっと問題あるけど」
子供は良い。イルカ似の女の子ならそれこそ大歓迎。男でも別に一向に構わないし、俺に似てても、まぁ許そう。
…が、しかし。
ちょっと問題があるんだよなぁ。…それも、死活問題に近い問題が。
「あの、問題があるなら…」
「気にしなくて良〜いよ。これは、俺とじーさん達の問題だから」
遠慮するイルカに苦笑する。
「…じーさん…って…」
「抱かせて貰えなさそうだからさ。俺の子供なのに」
「はい?」
言いながら溜息。
…ほんと、あり得そうで怖いんだよねぇ。最近、顔見る度にせっつかれてるし。
そうなったら、絶対、じーさん連中に独占されて、ない事ない事吹き込まれそうだ。
いや。
それだけならまだしも、俺のガキの頃みたいに木の葉の掟やら、火影の心得なんかを吹き込まれたら…。
うー。考えるだけで頭痛い。
「毎日争奪戦ってのも教育に悪そうだし…」
「か…カカシさん?」
「俺、昔っからイルカの事で我侭通しちゃってるから、逆手に取られそうで」
「ね、ねぇ、カカシさん?あの、子供…嫌いとかじゃなくて?抱っこ出来ないのが問題なの?」
こんな理由、考えつきもしなかったのか、目を瞬かせて尋ねてくる。
「そうだよ。普通に子供好きだし。ナルトとよく遊んでたじゃない」
「あ。そっか。私よりあやすの上手だったよね。…一緒に泣いてると飛んできてくれたもの」
ナルトが小さい時、よく、二人揃って泣いていたのを思い出したらしい。
その度、二人とも、俺が宥めたんだけど。
「…で?どうする?欲しい?」
改めて訊いてみる。
しばらくは数年がかりの長期任務なんて行かないだろうから、そういう意味での問題はない。下忍担当してる今が好期と言えば好期。
「…ほ、欲しい…です。赤ちゃん、欲しい」
嬉しそうに笑み崩れる姿に、ちょっと反省。我慢、させてたな。
「仰せのままに」
…争奪戦は、その時になってから、考えよう。
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