裏事情


 しばらくして、一番に立ち直ったのは先生だった。
「…決まりだね。イルカちゃんの儀式の相手はカカシに決定。後で火影の名前で正式文書にしておくよ」
「…そうですね。下手に変なのに当たるよりは…」
「カカシくんが本気なのは既に判ってますしね。…イルカの未来の旦那様は心配性ね」
「?」
 笑う先生に、深い溜息のうみの上忍(夫)と柔らかい笑顔のうみの上忍(妻)。
 …で、相変わらず何も解ってないイルカ。どうあれ、自分の要望が通ったのだけは判った。
 あ〜。良かった。
 …なんと言うか、無邪気過ぎるイルカのお蔭だよね。
 あの調子じゃ心配で、適当な人選も通例の担当上忍(女の上忍師少ないしね)も問題ありそうだし。それ位なら、オレのが安全だと判断されるでしょ。
 少なくとも、仲は良いしね。
「…オレを好きになってね」
 安心して、イルカに笑いかける。
 言うまでもなく、嫌われてないのは知ってるけど。
 この先も、ちゃんと今の位置(いちお、婚約者なんだよ)をキープし続ける自信もあるけど。
 やっぱり、ね。
「?大好きだよ?」
「もっと」
 不思議そうに、でも、満開の笑顔で応えてくれるのに、更に強請る。


 もっとずっと好きになって。
 世界が拡がってもオレを選んで。
 今は。
 うん。
 今は、お兄ちゃんでも何でも構わないから。
 もう少しで良い。心が大人になったら、オレと恋愛して。
 オレはもう、他の人は選べないから。


 …強要は出来ないけど。
「うん。…カカシさんもね?」
 首を傾げて上目に見てくるのが可愛い。
 望まれるなら、いくらでも。逢う度に想いは強くなってるから、隠す方が大変だけど。
「うん。世界で一番好き」
「イルカも〜」
 きゅう。
 正直な告白をすると、嬉しそうに抱き着いてきてくれる。それをしっかり抱き締めて。
 …うーん。
 自分の理想とはちょっとまだ違うんだよねぇ。オレ、小柄だし。まだまだ背もそんなに変わらないし。
 …ま、いずれは変わるだろうから、今は良いや。
 少なくとも、大人連中には微笑ましく見えるでしょ。空気がほのぼのしてきたからね。
「…イルカには最初から選択肢はないようじゃの」
「…確かに」
「大差ありませんよ。イルカが選ぶのはきっと、カカシくんですから」
「滅多に言わない我侭だから、叶えられて良かったよね」
「…そういえば、前の我侭もイルカちゃん絡みだったわねぇ」
「他に望みはないんかのォ」
「ないんだろ」
 大人共が、しみじみと何か言ってる横で、イルカとじゃれ合う。あんまり派手にじゃれると、執務室が荒れて、後で三代目に叱られるから、適当にコントロールしながらだけど。
 でもまぁ、とにかく。
 予約出来て良かった。
 この先、オレはもっともっと忙しくなるだろうし。
 そうしたら、しょっちゅう里を空ける事になるし。
 …考えたくもないけど、まぁ、フラれる可能性だって、ゼロじゃないし。
 だから。
 一生に一度、公認で触れられるチャンスは逃せない。証人付で確約させておかないと気になって仕方がない。
 …いざとなったら、イルカの意思を尊重しちゃいそうな気はするけど。
 たった一度くらい、騙しても罰は当たらないと信じたい。
 我ながら浅ましいなぁ…とか思うけどね。
 それ位は許してもらえるよね。
「…その前に、自覚が出来ると楽なんだけど」
「なぁに?」
「秘密」


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