儀式


「…いーなー」
「俺もあんな可愛い嫁さん欲しい」
「…無理無理。隊長並に人間出来てないと」
「あれで俺らより遥かに年下だろ?ありえねぇ」
「じゅーなな。わっかいね〜」
「…んで、奥方様がまた、特別だし」
「そりゃ、隊長の相手なんだから」
「…どーでも良いけど、急げよ。置いてかれるぞ」
 カカシの後に続く隊員達が羨ましそうに、だが嬉しそうに二人を見る。
 イルカを抱えたままの状態で、イルカにちょっかいをかけつつも一向に速度の落ちないカカシに付いて行くのは、暗部の精鋭といえども結構辛い。
 それでも無駄口を叩く余裕があるだけマシなのだろう。くすくす笑いながら樹々を渡っていく。
「…それにしてもさ」
「なんだよ」
「隊長、また強くなってねぇ?」
「なったなった。無駄な動きも全然なくなってた。…ま、本人はまだ不満みたいだけどな」
「…これ以上強くなってどうするんだか」
 苦笑する。
 元々、あの年齢で、あの強さは既に卑怯だ。それが、イルカを傍に置いているだけで思考、反応速度、判断速度全てが上乗せされる様を今回まざまざと見せ付けられたのだ。感服するしかない。
「無駄って言えば、隊長の辞書には無駄とか不可能とかってないよな」
「ないない。非効率とかもない」
「ただ、周り巻き込むけど」
「ばぁか。進んで巻きこまれるんだろ」
「違いない」
「…お前ら遅いよ〜。速く帰りたいんだからね」
 軽口に夢中になっている内に移動速度が落ちたのだろうか。先んじていたカカシが立ち止まって、苦笑を浮かべて追いつくのを待っている。
「すぐ行きますよ!」
「もー、先帰って良いですよ!」
「参列だけはさせてくださいね!」
「判ったー」
 顔を見合わせて口々に応じると、瞬身を使ったのかと勘違いする程のスピードでカカシが消える。その姿を呆然と見送った隊員達から、盛大な笑いが零れた。





 ───────── 十年後、更なる笑いと騒動の日々が待っているのは、彼らにとって幸せなのかどうかは知る由もない。


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