儀式


 ピィィィィ…!


 夜の帳の落ち切った刻限。
 鋭い警笛が響き渡る。
「敵襲──────── !敵襲──────── !」
 静寂が破られ、俄かに騒然とし始める。足音こそしないものの、殺気立った気配が無尽に動きだす。イルカも、闇に目を慣らすとテントから出た。
「イルカ!」
「皆。…指示は?」
「まだ。隊長も見あたらない。取り敢えず医療班に行こう」
「戦闘じゃ、あんまり役に立たないだろうからさ」
 肩を竦める仲間に苦笑する。
 戦闘未経験と言う訳ではないが、新米中忍の自分たちが足手まといになるのは必定。
 ならば、少しでも役に立てそうな部署に行くのが良いだろう。頷き合うと医療スペースへ向かう。
「…クス隊長!」
 医療スペースに程近い所で自分たちの上官を見つける。向こうもこちらを捜していたらしく、急ぎ走り寄ってくる。
「揃ってる?では、貴方達はこのまま医療忍を補佐して頂戴。うみのさんは私に付いてきて」
「はい」
 指示に頷くとそれぞれに散る。イルカは、足早に反対方向へ進む上官を追う。
「…あの」
「急いで!」
 ぴしゃりと言い放たれ、口を噤む。微かに眉を寄せると、上官の進む先を見遣る。
 このまま進めば、宿営地を抜ける。
 その先は戦闘区域だ。最低限の装備しか身につけていない自分達が出て良いものか。それとも、上官はイルカの知らない武具を身につけているのか。
 咄嗟に判断しかねたのだ。
「クス隊長!その先は戦闘区域です!軽装では危険です。戻りましょう!」
 一瞬、意見するのに躊躇するが、意を決して声を上げる。
 キャリアには随分差はあるが、一応同じ階級。諌言くらいは許されるだろう。
「…大丈夫よ」
「…クス隊長」
 ぴたりと止まった相手に合わせ、数歩手前で立ち止まる。
「この先どれ程進もうと、死ぬ事はないわ。…貴女も。私も」
「それは、どういう意味でしょう?」
 意味ありげに振り向いた上官に不信の眼を向ける。この先は戦闘区域。敵忍が多数いる筈なのに。この自信はどこから来るのか。イルカでなくとも不信を抱くだろう。
「言葉通りの意味よ。木の葉が私達を傷付ける事は有り得ない。そして」
 ゆったりと口角が上がる。妖艶と言っても良いだろう、笑み。
「彼等もね」
 ふふ…と笑う中、イルカを見遣る冷ややかな瞳が鈍く光った。


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