儀式


「紅烏隊と蒼狗二班は真珠の指示通りに。残りは俺に付いてきて」
 カカシの命令に全員が頷く。
「か…、えと、銀、さん」
「…カカシでもいーよ?」
 不安そうにカカシを見上げるイルカに笑いかける。
 カカシの予備の暗部服を身に纏い(隊員の中ではカカシが一番細かった)、やはりカカシの予備の狐面を片手に困っているのはとても可愛らしい。
「大丈夫だよ。いつも森に仕掛けてるのと一緒」
「…はい」
 中忍になったばかりのイルカにとって、大掛かりの作戦も初めてなら、同期の仲間以外に指示を出すのも初めてなのだ。緊張するなと言う方が無理である。
「いつも通りやればいーの」
「…はい。頑張ります」
 真剣な面持ちで頷くイルカに苦笑を浮かべると、きゅう、と抱き締める。
「か、カカシさん」
「大丈夫。じゃ、行って来るね」
 安心させるように背を軽く叩き、口布越しにキスを送ると面をかける。
「行ってらっしゃい」
 カカシが消える直前、咄嗟に出た言葉に振り返り、もう一度抱き締めると今度こそその場から消えた。
「…。え…と」
 カカシの消えた方角を見送り、小さく深呼吸。残っている暗部隊員達の方へ向き直り、ぴょこんと頭を下げた。
「よろしくお願いします!」
 その態度にふわりと暖かい空気が流れる。そして、イルカが頭を上げた時には、全員が膝を付き頭を下げていた。
「あ、あの」
「まずは現場へ向かいましょうか。指示はそちらでお願いします」
「はい」
 一番前に居た隊員の言葉に頷き、慣れない手つきで面をかける。きょろっと辺りを見回してみると、思ったより視界が広いので驚く。
 そして気付く。
 特殊で難易度の高い任務にしか就かない彼等の視界を、安易に奪う訳がないと。
「面は大丈夫ですか?視界が悪いようなら…」
「ありがとうございます。大丈夫です!結構、よく見えるんですね」
 声の方向へ元気良く応える。視界は悪くない。ただ、皆が同じ面を付けているので見分けがつかないだけだ。
 …いつかは、カカシ達のように見分けがつくようになるのだろうか?
「では参りましょう。焦る事はありませんが、出来る限り気は絶ってみてください」
「はい!」
 イルカを気遣って薄い気配を残す(それでも上忍並だが)隊員達に合わせて気殺を試みる。他の事は自信がないが、気配を絶つ事と読む事は同期の誰よりも得意だった。
 カカシから離れたイルカを下手に緊張させない為だろう。何度も優しい言葉をかけ、談笑しながら、暗部とは思えない速度でのんびりと現場に向かう彼等に、嬉しそうに微笑んだ。


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