儀式


「…それで、この地点に…。あの、カカシさん疲れてないですか?」
「ん。平気。続けて」
「はい。こことここに連鎖式のモノを仕掛けて、後、ここに時限式のモノを仕掛けてあります」
 広げた地図に印を打ちながらイルカが説明する。
 トラップを仕掛ける事自体は夜を徹しての作業になっているが、指揮者であるイルカが倒れては元も子もない為、夕方には宿営地に戻されている。それに合わせて、別に動いていたカカシが打ち合わせに戻って来たのだが、薄い反応に疲れが溜っているのかと不安になる。
「…ここに穴作れる?」
 地図上の、ほんの少し空いた空間を指す。ここにトラップの穴を作り、誘い込めれば上等。
 まあ、穴と言っても仕掛けが全くなければ警戒される。高度な仕掛けの中に適当な隙を作る程度のものだ。
 もっとも、それが一番難しいのではあるが。
「大丈夫だと思います。ただ、本陣にかなり近いですよ?」
「だから良いんでしょ。後は餌次第だねぇ」
 地図を眺めながらくつりと笑う。どんな仕掛けも、活用出来なければ意味はない。まして、この作戦は自ら言い出した事。万に一つの失敗も許されない。宿営地に程近いこの地点は、敵を燻り出すのにちょうど良い筈である。
「カカシさん?」
「イルカ、餌になってくれない?」
 薄く笑ったのを不思議そうに見上げるイルカを抱き締めてキスを送る。
 敵を釣る餌。
 国境を争うこの戦で、戦力差があるのにしぶとく粘るこの国に、いい加減敵も焦れている。
 その原因である木ノ葉を撤退させるには、契約を破棄させるしかない。
 ただし。
 木ノ葉にそれを強要出来るようなネタはない。敵には勿論、味方にも。
 なければ…作れば良いのだ。
 信憑性の高い、無視できないネタを。
「火影が暗部に護らせてる中忍なんて、最適だよねぇ。機密も持ってるし?」
「なんか、自分の事じゃないみたい」
「嘘は言ってないよ?」
 意味ありげに笑うカカシに噴き出す。
 表面だけを見ればイルカの立場はまさしくカカシの言うそれ。ただ、本人には自覚がある訳もなく。つい笑ってしまう。
「イルカには髪一筋触らせないから。安心して」
「頑張ります。でも、ちゃんと餌になれるかな?」
「適任。この状態を使わない手はないよ」
 実際、戦場では既に噂になっている。

『機密を纏った火影の娘』

 それが、真実か否かは関係ない。敵が無視できなければそれでいい。だからこそ、より煽る噂を流しているのだ。
「カカシさんがそう言うなら」
 判らないまま、それでも頷く。カカシの言う事に間違いはないのだから。
「ありがと。じゃ、寝よ?…寝かせて?」
「え、あ、きょ…今日も?」
 柔らかく笑い、抱き締める。その、裏に隠した意図を正しく読み取ったのだろう。顔を真っ赤に染めてイルカが慌てる。それを満足そうに見詰め、幸せに笑んだ。
「今日も!」


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