「…」
「…構わんじゃろ」
たっぷり三分間の沈黙の後、三代目が深い溜息と共に吐き出す。
「じっちゃん」
「イルカがお主の子を産むのに何かマズい事でもあるのかの」
「ない。…じゃなくて!イルカはまだ、中忍になったばかりでしょ」
カカシの方には問題なくても(むしろ歓迎)、イルカの方には問題があるだろうと訴えているのに、三代目は平然としたものだ。それが逆にカカシを慌てさせる。
「次代火影の子を産むのはイルカにしか出来んじゃろうしの」
「次代火影って…。嫌だって言った筈なんだけど」
当然のようにとんでもない事を言われて脱力する。
その件は、何度も謹んでご辞退申し上げた筈なのだ。
「ほう。ではお主はナルトに含みを持つ輩が火影になっても良いと言うのじゃな?」
「な…!」
さらりと続けられた科白に絶句してしまう。
「お主が言うのはそういう事じゃろうが」
「ひ、卑怯」
恨めし気な視線を三代目に向けると黙ってしまう。
書類上の被保護者であり、恩師からの大切な預かり物でもある小さな子供を引き合いに出されてしまうと、カカシに反論の余地はない。イルカの問題ごと誤魔化された気がしても、成す術もない。
「話はついたの。ではワシは里に戻るとするか」
「…」
「ともあれ、里に戻ったら祝言じゃ。楽しみにしておけ。ではの」
その言葉を合図に三代目の姿が消える。どうやら口寄せの術の応用だったらしく、時間制限があったようだ。
後には、茫然としたカカシと、妙に盛り上がった雰囲気の隊員達が残された。
「へ?何?」
「おめでとうございます隊長」
「暗部一同、謹んでお喜び申し上げます」
「ご成婚祝いは何が良いですか?」
「ち…ちょっと待って」
口々に告げられる祝辞に、真っ白になりかけた頭が更に混乱しかける。どういう話の流れでそうなったか、把握する事を頭脳が拒否するのだ。
「祝言、て…。え?え?嘘!」
隊員たちを黙らせ、口の中で言葉を反趨し、思考を立て直そうとする。だが、頭の中で砕けたパズルが組み上がった瞬間、かーっと頭に血が上る。
「隊長」
「たーいちょ」
「銀様〜?」
「カカシ様〜」
一度は戻った筈の顔色を再び真紅に染めて固まるカカシに隊員達が心配そうに覗き込む。
「…あ。え…と。寝る!」
周りの注視に気付いた刹那、瞬身を使ったのかと思う程に素早くテントに消える。
思わず見送った隊員達が一瞬の沈黙の後、笑い出す。
「あ」
「逃げた」
「なんつーか」
「若いね〜」
「いや可愛い過ぎ」
「違いない」
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