「…今の…」
「や…ち…ちが…」
零れてしまった甘い声に慌てて口を塞ぐ。自分でも信じられないのか、顔は最高潮に熱を持っている。
「…何で口塞ぐの?」
不思議そうに尋ねられても、頭を振るしか出来ない。手を退けたらまた、先刻のような声が出るかもしれないと必死になる。
あんな…媚びたような声。聞かせる訳にはいかない。
「…ね。動いて良い?さっきの声、もっと聞かせて?」
囁かれた科白にふるふると頭を振る。
「ダメ?」
頷く。
絶対ダメなのだ。あれは、自分の声なんかじゃない。そんなモノ、認められる訳がなかった。だから、気が落ち着くまで声も出せない。ただただ首を横に振るだけ。
「…仕方ないね」
諦めたように吐かれた溜息にイルカの緊張が緩む。その瞬間、口を抑えていた手を掴まれ、強引に外された。
「きゃあ!」
「実力行使」
ぺろり。
悪戯を成功させた顔で舌を出すカカシにパニックを起こす。
「だ…だめ。ちが…のぉ」
「何が違うの?教えて?」
「あ…なの、イルカじゃな…」
混乱に瞳が潤みだす。あんな自分は知らない。
「そお?イルカでしょ?すっごく可愛い声だったよ」
「うそ…」
優しく笑うカカシの言葉が信じられない。可愛いなんて慰めに違いない。
「ほんと。凄く可愛かった。イルカはいつだって可愛いけど、先刻のも最高」
「…き…きら…ない?」
「ならないよ。嫌いになんて。どうしてそんな事言うの」
「だ…て。変…な、声」
安心させるような声に不安に満ちた心が溶けていくものの、どうしても残る部分。変になってる自分が嫌われないか、呆れられないか、そればかりが思考を支配する。
「変じゃないよ。可愛い、て言ったでしょ。好きだよ」
「好…き?」
「そ。凄く好き。イルカが好き。世界で一番好き」
少し掠れた、でもこの上なく甘く唱えられる呪文にとろりと身体が蕩ける。
「誰よりも好きだよ。判らない?全身で好きって言ってる」
優しい手が頬をなぞり、もう、何度目か判らなくなったキスを繰り返す。
「ほん…と?嫌いに、なら…ない?」
不安にかられるままに尋ねると深い笑みで肯定される。
「…ね。可愛い声、いっぱい聞かせて?」
こくりと何かを飲み込む音をさせ、囁いてくる。
脳に響く甘い言葉に全身を震わせると、何も判らないまま頷いた。
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