儀式


「…はいっ…た…」
 苦しそうな息を吐きながらカカシが呟く。
 痛い位に締めつけてくる媚肉の感触に、つい意識を持っていかれそうになるが、深く息を吐く事で理性を保つ。ここで無理を強いる訳にはいかない。
 出来るだけ優しく挿れたつもりだが、随分痛い思いをさせてしまったのだろう。噛まれた肩に血がにじんでいる気がする。
 …仄かに香る血臭は、自分の肩の物だけではなさそうだったが。
「…ん…ふ…う…」
 痛みをやり過ごす為か、眉を寄せて息を吐く姿が痛々しい。
 気分の問題かもしれないが、少しでも楽にさせたくて、予想以上に狭いイルカの中を下手に刺激しないように気を付けながら髪を梳いてやる。
 何度も優しく梳いていると、与えられた痛みに放心していたイルカの目が正気を取り戻してくる。
「大丈夫?」
 覗き込むようにして労りの声をかけると、弱々しいながらも薄く微笑んでくれる。
「へ…き。ちょ…苦し…けど」
「痛くない?」
 浅い呼吸を繰り返す姿に眉を寄せる。あまりに辛いようなら、暗示をかけてでも痛みを一時的になくそうかと思ってしまう。
「…ん。へー、き」
「ほんと?」
「さっき、は、いたかった…けど」
「今は平気?」
「ん」
 舌足らずにゆっくり話すイルカに安堵する。潤滑剤に含まれた鎮痛成分はちゃんと効いているらしい。
「良かった。薬、効いてるね」
「おくすり?」
「ん。鎮痛剤をね。塗ったから」
 言いながらこめかみに唇を寄せる。それと同時に、安心したように漏らされる吐息。それが絶対の信頼に感じられてどこかくすぐったい。
「カ、カシ、さん…は?」
「え?」
「いたく、ない?」
 心配そうに見つめられるが、心当りがなくて頭を捻る。
 確かに痛みを感じる個所もあるが、それはどちらかと言うと自業自得に近い。そんな事より幸福感の方がその他の感情を上回る。
「かた。かんじゃったから」
「…あぁ。平気。痛くないよ」
 言われてやっと思い当たる。加減無く噛まれた肩は確かに鈍い痛みを伝えていたけれど。そんなもの、気になる程ではなかった。
「ごめ…」
 謝りながら、噛み跡をなぞり、おそるおそる舌を這わす。本人は何も意図してない行為だろう。だが、今のカカシには過剰な刺激。ぞくりと煽られる感覚を、必死に飲み込んだ。
「こら。舐めないの」
「…血、でてる、から」
「駄目。動かしたくなるでしょ」
 苦笑気味に言って、馴染むまでと我慢していた腰を脅し半分にほんの少しだけ動かす。
「…あ!」
 刹那に上がった鼻に抜ける甘い声に、二人で硬直した。


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