儀式


 宣言通り、手指と唇を巧みに使って全身にくまなく触れていく。
 背に、腹に、イルカを怯えさせないよう、細心の注意を払って施される優しい愛撫に、硬直気味の躯がゆっくりと弛緩し始める。
「…ふ…」
 快楽には程遠いながらも熱を持ち始めた躯を持て余すように吐息を漏らした刹那、片側の胸の突起を甘く吸われた。
「…ひゃ、あ」
 突然の行為に躯が跳ねる。
 そのまま、舌で転がされる感覚に耐えられなくてもがいてしまう。背筋を伝う、肌が粟立つような感覚は今まで経験した事がなかった。
「…ゃ…」
 慌ててカカシの舌から逃れようと手を伸ばすが、片手で難無く制される。ぎゅっと手を握られ、僅かな抵抗も出来ずにいたたまれなくなって身をよじる。
「…か…カカシ…さ…」
 小さく漏らした呟きにカカシが顔を上げる。
「…ぁ…」
「ん?」
 何気無く視線が絡んだ瞬間、ぞくりと背筋に何かが走る。
 見えたのは、カカシの目の奥の、見た事のない色。
 否。
 過去に幾度か見た。ただ、いつもは気付いた途端に巧妙にイルカから隠され続けた色。
 それはまるで獲物を見つけた、飢えた捕食者の瞳。
「…何?」
「ん…何…でも…」
 鈍く光るように見える双眸に言葉が止まる。ぞくぞくする背中に戸惑いながらも息を紡ぐ。
「嫌な時はちゃんと言って?…努力はするから」
「へ…き」
 ふるふると首を振れば、安堵の吐息が漏らされる。戒められていた手が外され、首へと導かれる。
「怖かったら、しがみついてて」
 耳許に唇を寄せ、耳朶に歯を立てる。
「いたっ…」
「そうやってね、我慢しなくて良いから」
 ちりりとした痛みに眉を寄せると、同じ場所に舌を這わせながら言ってくる。
「ん…。…ぁやあ…!」
 気遣う声音に頷きかけ、軽い悲鳴をあげる。気を抜いた瞬間に胸の蕾を摘まれたのだ。
「やだ…それ、やだ」
「何が嫌?教えて?」
 ぺろり。
 再び突起を舐められ、躯が震える。
 ぞくぞくする、妙な感覚が止まらない。何故か下腹部に熱が集まっていくような気さえする。
「くすぐったい?」
 言われて咄嗟に頷く。それは事実だったから。実際はそれだけではなかったけれど。
「…くすぐったい…だけ?」
 過去にないくらい過敏になっている躯は、揶揄う口調にすら反応してしまう。
「ね。くすぐったいだけ?」
「…わ、判ん…な…」
「ん。ごめんね」
 泣きそうな声をあげるイルカに軽く謝る。
 胸を解放し、キスで宥めながら、するりと大腿を撫であげ、緩んだ隙間に手を差し入れた。
──────── …え、や、だ、ダメ!」
 大腿の内側に触れる手に慌てて脚をばたつかせる。しかし、それは全く効果がなく、逆につつ…と滑る指先がイルカの中心に寄っていく。
「…あ」
 何かに気付いたカカシが小さく声をあげる。
 どこか嬉しそうに響いた呟きに思わず抵抗を止めて見つめてしまう。
「濡れてるね」
「え?」
 聞き慣れない言葉を、弾む口調で囁かれて首を傾げる。無防備になったその一瞬を見逃すような相手ではないのに。
「…ここ。濡れてる。嬉しい」
 にぃ…と笑む顔に一瞬見惚れ、指が触れる場所に気付くのが遅れる。ゆるゆると絡み着くように蠢く指に気付いた瞬間、頬が再び真紅に染まった。
「あ。や、やだ!」
 両手を伸ばし、カカシの腕を掴むと必死に外させようとする。だが、基本的な筋力の違いに加えて、不利な体勢の所為で微動だにしない。
「さ…触っちゃだめぇ!」
「どうして?」
 制止しようと首を振るイルカに不思議そうに尋く。
「だ…だ…て。そこは…」
 真っ赤になったまま言い淀む。
 そんな所、触って良い場所じゃない。
「言ったよね?手と口で全身に触る…て」
「え」
 言い聞かせるように告げ、殊更に指を蠢かす。自分でも触れた事のない個所を弄られ、ぞくぞくと言いようのない感覚が身を走っていく。
「…俺が嫌じゃないからこうなってるんでしょ?」
 耳許で笑われ、身震いする。
 一瞬、脳裏にくの一講習で教わった内容が巡るが、カカシの次の科白で霧散してしまった。
「ね。舐めるよ。良いね?」
 甘い声で言うが早いがイルカの返事を待たずに両脚をぐい、と持ち上げてしまう。そのまま、脚を閉じられないように軽く押さえ付け、視線を落とした。
「や…やだ。見ない…でぇ」
 不躾な…と言うより、熱の篭もった視線に射られ、羞恥に染まる。
 あまりの恥ずかしさに固く目を閉じて自由になっている腕で自身を抱き締めた。
「…凄い」
 ぼそりと漏らされる吐息混じりの声。
「凄く可愛くて、綺麗」
 うっとりと呟かれる言葉に益々羞恥心が煽られる。
「ほんと、可愛い」
「や…」
 視線を感じる度、逃げたくなる。少しでも身を隠そうと躯を捻ろうとした刹那、全身に痺れが走った。
「…!」
 ぴちゃ…と湿った音が耳の奥に聞こえ、躯が震え出す。
「…あ!や…あ。んんっ」
 有り得ない個所で感じる舌の動きに悲鳴を上げてしまう。
 手を口元に持って行き、声を抑えようとするが、未知の感覚に息が乱れてままならない。
「いや…あ!…ぁ…!やぁぁ…」
「…甘い…」


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