儀式


「…ん…」
「…ね。もう一度尋くよ?」
 とろん、とした目で中空を彷徨うイルカの目元に唇を落としながら小さく問いかける。
「…な…に?」
「これ、ラストチャンスだからよく考えて」
「ん…」
「このまま続けても良い?本気で嫌なら今のうちだよ」
「止め…る…の?」
 ゆっくりと目の焦点が合ってくる。
「儀式はね。中忍になった以上、早いうちにやっとかないとまずいんだけど。相手を選ぶのは女の子の方だから」
「あ。そういえばそんな事聞いた…」
 中忍昇格直後の、くの一だけを集めた説明会で聞いた事。
 規定こそあるものの、一応は本人の希望が優先されるという事。ただし、特別相手が思い付かない者は、基本的に下忍の時の担当上忍がするとも。
 イルカの場合、下忍になる以前に四代目火影の名をもって相手が決められていたので、他の友人達と違って実感も薄く、つい、儀式の存在ごと忘れていたのだ。
「一応、相手は中忍以上って制約はあるけど。そんなのは気にしなくて良い。もし、望む相手がいるなら、俺が、どんな手を使ってもセッティングしてあげる」
「…場所も?」
「場所も」
 全部、イルカの良いようにしてあげる。
 眉を寄せ、今まで見た事がないくらい辛そうにしているのに、それでも笑いかけようとしてくれるカカシに、心が痛む。
「今のこの状態は俺の我侭だから。じーさん達にまで協力して貰って…。ごめんね」
 自嘲気味に笑う。こうやって、色々な事を飲み込んで来たのだろうか。
「…んと…。誰でも良いの?」
「良いよ」
「どこでも?」
「勿論」
「じ…じゃあ、じゃあね」
「うん」
「こ…ここ…で、カカシさんとが良い…な」
 恐る恐る手を伸ばし、すぐ上にあるカカシの両頬を挟み込む。それから、意を決して目をつむり、そうっと唇を合わせる。
 それは、今までに何度も繰り返されたモノと同じにした筈だったけれど。
相手への効き目は段違いだった。


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