儀式


「カカシさん、膳って何?」
 トラップ設置準備に伴う一連の作業を終わらせ、落ち着いたところで問いかける。
「…んー。儀式用の膳。中身はまぁ、酒と肴程度の簡単な物なんだけどね」
「お酒?…だ、駄目です!カカシさんだってまだ未成年なのに!」
「中忍以上は成人と同じ扱いでしょ。忘れたの?」
 泡を食って慌てるイルカに苦笑する。
 下忍までは子供…つまり半人前で通せるが、中忍以上は年齢に関わらず大人の扱いとなる。
 つまり、大人としての責務を果たす代わりに飲酒喫煙も許可されるのだ。
 つい最近中忍に昇格したイルカはともかくとして、幼い内に中忍になったカカシは、大人としての生活を余儀なくされていたということ。
 喫煙こそ嗜好品だからと興味を示さなかったが、飲酒に関しては任務にも関わるとして、中忍になった前後辺りから慣らしている。その所為で、今では毒物と同じように耐性があった。
 …それを告げようとは思わなかったが。
「…覚えてるもん」
 拗ねて口を尖らせる仕草に笑みを深める。
「まぁ、俺の事はいいんだけどね。今回、主に酒を飲むのはイルカだから」
「私?」
「そ。酒にはリラックス効果もあるからね。儀式には不可欠なんだよ」
「…ねぇ。儀式って?先刻も言ってたでしょう?カカシさんのお留守の時、紅烏隊の…誰かも言ってたし」
 朱を基調にした隈取の烏面を思い出す。もっとも、カカシのように番号までの区別はつかなかったのだが。
「…『中忍昇格おめでとう。さあ、身も心も大人になろうね』式」
「…はい?」
「…え〜と、ね。今からここでやるのはさ。イルカが中忍になって以来、俺とじーさん達で引き伸ばしてたヤツなんだけど」
「私の?何?」
「判らない?」
「うん」
「…今日、会った時、聞いたよね?」
「会った時…?」
「済ませた?ってさ」
「え?…あ!やだ!」
「…判った?」
 やっと思い当ったのだろう。かああ…と音がしそうな程、明確に頬を染めていく。
 もしかしたら、首までと言わず、全身、朱に染まっているかもしれない。
「ぎ、ぎ、儀式って…」
「うん。そう。破瓜の儀」
 イルカに釣られたのか、カカシもほんの少しだけ頬を染める。改めて確認すると、やはり照れ臭いのだろう。
「…こ、ここで、す、する…の?」
「うん。嫌?」
「い、嫌って」
「俺が相手は嫌?」
「そ、そんな事はないけど。でも」
 頬に手を当てて火照った熱を冷まそうとする。
「…本当はさ、この任務が終わったら里に戻れるから、その時に…て、思ってたんだよねぇ」
「戻ってからじゃダメなの?」
「うん。…どうしても嫌?」
 里に戻ってからでも、実は構わない。
 だが、慰安絡みの輸送任務で現れた以上、帰路で同じ目に遭わないとも限らない。当然、帰路も見張るか、暗部預かりのまま連れ帰ろうと思ってはいるが、万が一と言う事もある。
 悟らせはしないものの、カカシとしては随分と危機感があるのだ。
「…え…あの…。カカシさんがしたいなら…その、い、良い…よ?」
 真っ赤な顔のまま、表情の消えてしまったカカシの袖をきゅ、と握った。


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