「ただーいま」
テントの前に降り立ち、中に向かって声をかける。一応の配慮。そしてその間に面と口布を取ってしまう。
「お帰りなさい」
数秒と待たされる事なく、イルカが顔を出す。条件反射的に抱き締めようとして…一瞬止まった。
湯浴みを終えたイルカは、その衣装すら替えていたのだ。
支給服とは違う、艶やかで雅やかなそれは、とても意味のあるもの。隊員たちが誂えたであろうそれが悪いとは思わないが、流石に心の準備くらいさせて欲しかった。
…多少は期待してはいたが。
「カカシさん?」
「ん〜。似合うよ。それ」
「良かった」
自分の着ている衣装の意味も判ってないのだろう。無邪気に微笑まれる。それを手放しで褒め、抱き締める代わりに頬や目許に軽いキスを送る。
埃に塗れた服で汚したくなかった。
「凄く可愛い。…で」
「?」
「蒼狗二番、三番、俺の湯と衣。紅烏九番、戦闘区域の詳細図。後、蒼狗、紅烏両隊全員集めろ。今すぐだ」
抑揚のない、感情を消し去った声で命じる。刹那、その場に居た隊員達が姿を消した。
「…あのね、イルカ」
「はい」
隊員達に向けていた表情を一変させ、イルカに悪戯っぽく笑いかける。
「頼みがあるんだけど良い?」
「頼み?」
「…凄く可愛いし、今から暫くお預けなんて辛いんだけど…」
「何ですか?」
困ったように告げてくるカカシの顔を下から覗き込む。
イルカにしてみれば、カカシから頼み事をされるなど滅多にない為、多少の難題は気にならない。だから、カカシが困ったりする必要はないのだ。
「俺の湯浴みが終わり次第、作戦会議開くから。参加してね」
「わ…私も?」
「うん。大事な事だから。とりあえず、後で」
イルカをテントに戻すと湯浴みに向かった。
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