儀式


(うざ…)
 毎度の事ながら、グズグズと一向に進まない作戦会議にカカシが狐面の下で溜息を吐く。
 今回の部隊長はどうも有能とは言い難く、暗部を二個中隊も作戦に組み入れたクセに何の活用も出来ないらしい。
 その扱いに不満があるとはいえ、表向きは命令系統を崩す訳にもいかない。
 仕方なく、負傷者救助と情報収集をメインに行動していた。
「…そちらは何かあるか?」
「ない」
 いきなり話を振られたが、冷徹に返す。
 先刻、含みを持った相手。…大切な大切なイルカに伽を命じようとした、馬鹿上忍。
 たとえそれが、戦地における規定内の行動であり、当人に非がないとしても、自分の前でイルカの腕を無理矢理掴んだだけで許し難い。逆恨みだろうと、言い掛かりだろうと、それが、正直な感情。
 態度に出す気はないが内心の評価がきつくなるのは否めない。
「ない事はないだろう。…火影様からの伝令が行ったんだからな」
「(そう来る訳ね)答える義務はない」
「な…」
 妙に突っかかってくる相手を一刀両断にすると絶句されてしまう。
 その様子に深い息を吐き、仕方なさそうに口を開いた。
──────── この作戦を二週間以内に終わらせろとの事だ。…その為にトラップを張る。あの中忍が持たされたのは、その方法だ。以後、その件はこちらに従ってもらう。では」
 淡々と答え、そのまま踵を返して作戦会議用のテントを出て行く。半分は元から考えていた事だが、残りの半分は口からでまかせである。それでも、無駄な会議から抜ける口実には丁度良い。それに、トラッピングなら適任者がいる。
 どちらにせよ、いい加減この任務に焦れていたカカシには都合が良かった。
「お待ちください!」
 跳躍しようと構えかけたところで鋭い声を背後に浴び、ゆっくりと立ち止まる。
 見覚えのないくの一が駆け寄ってきた。
「何か」
「輸送隊長を務めます、クスと申します」
「あぁ。アンタが」
 今回のイルカの上官。
 もっとも暗部預かりにしてしまったので、既に関係はない。話も部隊長から行っている筈である。
「うみのを連れていったと伺いました。戻して戴きたい」
「…悪いが」
「何故です!慰安が必要なら…」
「アンタが相手するとでも?もっとも、この程度で暗部に慰安は必要ないが」
 せせら笑う。
 くの一を連れて行く、イコール慰安としか考えられないのだろうか。しかも、あの会議用テントの中でカカシの言った科白を聴いていたとは思えない言葉。
「ならば…」
「…聞いてなかったのか?彼女は火影様より我等が預かるよう指示されている」
「そんな見え透いた…。あの娘が火影様の伝言なぞ持っている訳がない!」
 叫ぶように否定され、面の下で眉を寄せる。
 いやに確信がありそうな発言。暗部が、火影の名の下に行う事柄に対し、疑念を差し挟む忍が居てはならない筈なのに。
「…何故、そう言い切れる?根拠は?」
「そ、それは…」
「アンタが何を根拠にそんな発言をしているか知らないが、彼女は確かにトラップの情報を持って来ている。それも…トラッピングの天才の考案したモノだ」
 言い淀む相手を叩き伏すように告げる。言外にこれ以上反論しようものなら、制裁を加えるという気配を滲ませて。
「そんな馬鹿な…」
「…話はそれだけか?」
 冷ややかに告げ、その場から木の葉一つ散らさずに掻き消えてみせた。


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