七夕


 取りこぼしたり、奪い合ったり。
 一時の無反応が嘘のように、食事を楽しんだ子供達を連れ、屋敷の近くに流れる川まで歩いていく。
「あ。ホタル」
「え?」
「ほんとだ」
「見に行っていーよ。その代わり、あんまり遠くに行くなよ」
 川に近付くにつれ、淡い黄緑の光が幾つも目の前を掠める。これだけ大量の蛍を見る機会など、今までなかったのだろう。うずうずしだす子供たちに許可を出すと、元気の良い返事と同時に跳ねて行ってしまう。
「疲れが出たのかと思ったんだけど」
「楽しそうですね」
 蛍を目指して駆けて行く子供たちに、安堵の息を漏らす。
「うん。…あ。イルカ、そこ坂になってるから」
「え?」
「ほら」
 夜道だからと言って視界が悪い訳でもなく、身のこなしには何ら心配もないのだが、土手を下りるのに万が一にもつまずかないよう、優しく手を取る。イルカが遠慮しようにも、しっかり掴まれている上、顔を覗けば単なる口実だったのだろう、バツが悪そうに視線を逸らす。くすくす笑うと、手を取られたままついて行った。



「…キレー」
「うん!ホタルキレーだってばよ」
「違うわよ。あっちよ、あっち!先生たちよ!」
「え?」
 サクラの指差す方に目を向けると、自分たちの所へのんびり歩いて来る大人二人。
「凄くお似合いな感じじゃない?」
「お似合い?」
「恋人に見えるって事だろ」
 ただ、普通に歩いているだけに見えるのに、なんだかとても優しい感じがする。見ているだけでドキドキして、慌てて二人の仲間を見ると自分と同じように赤くなっている。
 きっと、自分たちはあの空気の中に入れてもらえる。あの二人は当り前の顔で受け入れてくれる。
 でも、ただ見ていたくて、三人はしばし見惚れた。
「…あの二人が恋人になったら幸せよね…」
「…え?」
「…サクラ…」
「二人共恋人いなさそうだし。…ふふふ」
 内なるサクラ、始動。
 隣で怖ろしげな気配を滲ませ始めたサクラに、サスケがそれとなくナルトを庇ったのは言うまでもない。


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