七夕


「…ん…」
 角度を変えながら何度もキスを繰り返す。甘い吐息を飲み込むように深く口付け、腕が首に回されるとそのままゆっくり立ち上がる。
「…な…に?」
 ぼんやりと瞼を上げる、その目元にまた、唇を落とす。
「冷えたら困るからね」
 言いながら室内に入り、行儀悪くも足で庭に面した戸を閉める。夜の帳の中、全く揺らぐ事のない足取りで寝具へと連れていく。
「それに、まだ目に毒でしょ」
「何、が?」
 夜着に侵入しようとする手を、それとなく妨害しながら問う。
「だって、ちょっと早いでしょ?…天の恋人の逢瀬にはね」
 人の悪い笑みを浮かべて耳許に囁く。吐息が触れ、くすぐったさに首をすくめた。
「…きっと、イラついてる。こういう事したくてね」
 囁きながら耳の裏に舌を這わす。ゆっくり味わい、イルカの意識がそちらに向いた隙に今度こそ、夜着の中への侵入を成功させる。大きなカカシの掌に吸い着くように納まる膨らみに触れると、やわやわとその感触を楽しんだ。
「やぁん…」
 たまらず甘い声を漏らすと、悪戯に従事する手を押さえ、吸い着いてくる唇から逃げようとする。腕力差は歴然としているのだから、無視する事も出来るが、敢えて行為を止めてやる。
「何?」
「…やだ…」
 低く問われ、頭を振る。
「なーんで?」
「…普通に眠りたい…な」
 無意識に機嫌を窺う拗ねた視線。残業続きで疲れが溜まっていると言いたそうである。
「熟睡させてあげるよ?」
 甘えを含むお伺いはきっぱり黙殺する事に決め、揶揄いながら眦に一つキスを落とすと、制止させられていた手の動きを再開させた。それに合わせて、ぴくん、ぴくんと確かな反応が返ってくる。
 それは、本気では嫌がっていない証拠。
「そういう問題じゃ…」
「そう?じゃ、どういう問題?」
 ちり、と耳朶を甘噛みしてその裏の柔らかい部分を吸いあげようとする。
「…あ!だめ!」
「…イルカ?」
 腕を突っぱね、カカシの顎を押し上げ、とにかく慌てた風情で暴れ出すイルカに、身体を起こして怪訝な目を向ける。
 直に触れられる事自体は受け入れているのに、この反応は判らない。何か懸念事があるなら、排除するつもりで静かに見つめる。
「何か心配事でもあるの?」
 顎に添えられている手をそっと外し、ふわりと抱き抱えて、ちゅ、ちゅ、と顔中にキスの雨を降らしながら優しく尋ねる。
 額に、頬に、眦に、鼻先に。優しく触れる唇は、頑なになった心をじんわりと解していく。
──────── あ…痕、残っちゃう…」
 しばらくして落ち着きを取り戻すと、言い辛そうに呟く。おそらく、ほんのりと頬を染めているだろう。
 忍の…と言うより上忍の視力は、この程度の暗闇で困る事は全くないが、流石に色は判別しにくい。それが少し惜しく感じた。
「…痕?」
「さ…サクラ…と…約束、した…から」
 聞き返せば申し訳なさそうな声。
「サクラと?どんな?」
 因果関係が思いつかず、更なる答えを促す。その間も手指は緩やかに悪戯を施している。
 会話の邪魔にならない程度に。さりとてその腕から逃れる気の起こらないように。素知らぬ顔で的確に相手を煽っていく。
「…お風呂…」
「風呂?」
「明日…ね。一緒に入ろう…て」
 恥ずかしいのか、目の前にあったカカシの肩にしがみついて顔を隠してしまう。触れた素肌が熱いのは、全身が紅潮しているからだろう。
「あ…風呂…ね」
 納得して、その理由の可愛らしさに無意識に緊張していた身体の力が抜ける。
 サクラと風呂に入るから、身体に痕があってはマズいと。
 だから、痕が残る行為は嫌だと。
 そう言うのだ。
 おそらく、その言葉の中には関係が子供たちにバレたら拙いとか、そういう考えはないだろう。ただただ恥ずかしい、それに尽きているようだ。
「…かーわいい」
 背に回していた腕に力を入れて抱き締める。
「…え…?…あ…」
「痕、ね。そっか」
 胸の突起に指を滑らせ、もう片手でつう…と背筋を撫でてやれば、逃れようと身動ぎする。
「か…カカシ、さん。だ…め」
「痕、残さなきゃいーんでしょ?」
 アカデミー教諭なんて、室内よりも屋外にいる事が多い職種の割に、あまり日焼けしていない白い肌は、吸い上げれば簡単に朱の花を散らす。その婀娜っぽい姿を見られないのは少々残念ではあるけれど。そんなのは今回だけの事でもないから簡単に承諾出来る。
「そ、それは…あの」
「可愛い事言うから、止まんない」
 否定しきれないイルカに笑いかけ、甘い吐息を絡め取る。深く口付けながら、徐々に熱を持ち始めた躯をゆっくりと押し倒した。


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