七夕


「先生、どうしてここに?」
 夕食後、一心地付いたところで子供たちが詰め寄る。
「ん?カカシ先生が誘ってくださったから」
「カカシ先生?」
「ん〜。昨日、三代目の所で会った時に、明日、明後日は休みだって聞いたからねぇ」
 目を据わらせて三人同時に現上司を振り向く。そのあまりの揃い方にイルカが小さく噴出した。
 そんな四人の様子も何処吹く風でカカシが嘯く。
「やっぱり迷惑?修行の邪魔?」
「そんな事ないってばよ!」
「イルカ先生も一緒で凄い嬉しいです!」
 不安そうな顔をしてみせると、焦った様子で即答する子供に苦笑する。いきなり現れた為、随分と驚かせはしたものの、とにかく歓迎はされているらしい。
「さて。明日は早いから、三人共早く休むんだぁよ」
 ス、と立ち上がってカカシが言う。
「カカシ先生どこ行くの?」
「風呂〜。イルカ先生が後の方が良いって言うから。ね?」
「すみません。我侭を…」
「いーえー。コイツらと話したいんでしょ?」
「…すみません」
 へらりと笑うカカシにぺろりと舌を出す。その子供染みた仕種に更に笑みを深めると、後ろ手に手を振りながら部屋を後にした。
「…ねぇ、イルカ先生。カカシ先生と仲良いの?」
「え?」
「話してる所なんてあんまり見ないのに、凄く仲良さそうだから」
 一応、カカシが出て行ったのを確認してからサクラが聞く。もしかしたら、気配を消しただけで傍に居るかもしれないが、どうせ自分たちのレベルでは上忍の気殺が分かる筈がない。出て行くまで我慢したのは、まぁ、気分の問題だ。
 カカシの方に尋ねる気にならなかったのは、なんとなく、としか言い様がないのだけれど。
 ともあれ、二人共、自分達の前ではほとんど対話をしていないのに、端々で交わされる少ない言葉があまりにも自然に感じられて。どうにも大人の秘密っぽくて気になったのだ。
「そう見えた?」
「うん。先刻の台所でだって…」
「そういえば、今日の夕食は先生が作ったのか?」
 台所という単語に触発されたのか、サスケが聞いてくる。
 今日の夕食は、本膳料理(日本料理の正式な膳立)に近しいもので、食事中、作法を外れる度に、カカシから容赦のない注意を受けながら食べたのだ。
 もっとも、味も雰囲気も良かった為、それ程堅苦しい思いはしなくて済んだのだが。
「カカシ先生だよ。来たときにはもう、八割方出来てたから」
「…へー」
 解明された事実に三人が目を丸くする。先刻食べた、一流料亭(三人共、行った事はないが)にも劣らないだろう、見事な料理の数々が、あの、どこか怪しげな風体の上忍の手によるものだったのだから。
「でもさ、でもさ、俺、すっげー嬉しいってばよ!」
 気を取り直したらしく、満面の笑みを浮かべてナルトが飛びつく。
「そうね。最近受付所でも会えなかったし」
「焼肉の時以来か」
 二人も、イルカに抱き着いたナルトを引き剥がしながら相槌を打つ。久しぶりに恩師の顔を見られた上、今日から暫くは一緒に過ごせるのだ。
 嬉しくないわけがない。
「アカデミーの方が忙しかったからね」
「じゃあ久しぶりのお休み?」
「そう。だから、今日はカカシ先生に誘って頂いて得したかも」
「カカシ先生もたまには良い事するってばよ」
「ほんとよね〜」
「全くだ」
「…三人共、仮にも自分の上官に失礼だよ…」
 あまりと言えばあまりな子供達の科白に困った顔を浮かべつつ、久しぶりの会話を楽しんだ。


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