「あれ?サクラちゃん。カカシ先生は?」
屋敷中の掃除もなんとか及第点を貰い、順番に風呂に入った。
ここの風呂は、単純泉とはいえ立派な掛け流しの温泉だそうで、更に、露天風呂まで付いているのだ。
紅一点の所為で、一人で入らざるを得なかったサクラものんびり楽しんだのだが、サスケと一緒に入ったナルトはかなりはしゃいだのだろう。
真っ赤な顔をして駆け寄ってきた。
「あ、ごめん。お風呂上がってからずっとここに居たから…」
浴室から続く、中庭に面した外向きの廊下の風が、長湯で火照った肌に心地よく、他の二人の入浴中、ずっと涼んでしまっていた。
「…どこかに居るだろう。探すか」
「うん。俺ってば腹減ったってばよ」
「…台所に行けば何かあるんじゃないか?」
「じゃ、まず台所に行ってみましょ」
空腹を訴えるナルトを呆れ気味に見るものの、他に探し場所も思い当たらない。
一旦、離れに寄って荷物を置き、改めて母屋に戻ると台所を目指す。初めて来た家だが、そこは掃除のお陰で間取りはきちんと憶えている。
「…何か、良い匂いがするってばよ」
台所に近い廊下に出た時、ナルトが鼻をひくつかせながら言いだす。その言葉にサスケとサクラも意識を鼻に集中させると、確かに食欲をくすぐるような匂いがしてきていた。
「…カカシ先生じゃない?」
「アイツ、料理なんか出来るのか?」
「とにかく行ってみるってばよ!」
頷き合うと小走りに台所に向かう。
「カカシ先生〜!」
「…あ。三人共お風呂出たの?」
呼びながら、厨房とも言えそうな立派な台所に突入すると、予想だにしなかった優しくて柔らかい声に硬直してしまう。
「…え…?」
「すぐメシにするから、この料理持って、居間に行ってちょーだいよ」
動けなくなった三人に、いつもののんびりした口調が振りかかる。
「か…カカシ先生?」
「どした?」
ぎぎぎ、と音がしそうな程ギクシャクした動きで、自分たちを面白そうに見つめる長身を見上げ、驚いた表情そのままに口を開く。
「何で…」
「イルカ先生が居るんだってばよ!」
搾り出すように問う声は殆ど悲鳴に近い。それ程に驚いたのだ。
「…迷惑だった?」
「そんな事ありません!でも、聞いてなかったからびっくりして…」
「詳しい事は後。とりあえず食事」
大好きな恩師の困った顔に慌てて否定をするものの、どうしていいか判らず混乱する子供達の鼻先に、一人冷静な上忍は料理を突きつけたのだった。
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