七夕


「つ、着いた」
「もー、山登りは当分いいってばよ…」
 息も絶え絶えにたどり着くと、その場に座り込む。
 見た目より遥かに凄い急坂を。
 転げ落ちる事数回。
 そんな事を何度か繰り返した所為か、子供たちの体力は限界に近い。
 途中から会話らしい会話はなくなり、息も上がってしまったが、着実に坂を登って来たのだ。つまり、本人たちは気付いていなくても、きちんと修行の成果は出ているという事。
 特に、最後の難関。
 坂を登りきる直前の傾斜は、それまでの比にならない程、キツい。なんというか、辛うじて傾斜を確認できるのだが、ほぼ絶壁状態な上、つるつるの鏡面か氷面のようなのである。そんな難所を、荷物こそ先にカカシが持って行ってやったものの、なんとか自力で登り切ったのだ。褒めてやっても良い位である。
 …もっとも、そう簡単に褒める程、甘いカカシではないが。
「はい。お疲れさん」
 チャクラも体力も使い果たし、とうとう自力で立ち上がれなくなった三人を簡単に労い、彼らの荷物を担ぐ。
「…カカシ先生?」
「移動するよ」
「も、もう動けないってばよ」
「ん〜。仕方ないなぁ。ちょっと待ってな」
 言い置いて、さっさと立ち去る。程無くして戻ると、まずナルトを左肩に乗せ、同じく左腕でサスケを横抱きに持ち上げる。最後に、空いた右腕をサクラに伸ばすと、縦抱きに抱える。
「小荷物扱いくらいは我慢しなさいね」
 苦笑しつつ子供三人を軽々と持って歩く。三人纏めればどんなに軽く見積もっても百キロは超える筈だが、全く重さを感じさせない。さくさく進むと、ものの一分も経たない内に、三人まとめて下ろされた。
「…カカシ…」
「でっけー」
「ま、まさか、ここに泊まるなんて言いませんよね?」
 三人の目の前に、見事な屋敷があった。
 整えられた庭に、ちょっとした離れと茶室。小規模な一流旅館か料亭かという風情に、三人共息を飲む。いくらなんでも、これは分不相応というものだろう。
「そのまさか〜。ちょっと古いけどね」
「そうじゃなくて」
「休んだら掃除な。母屋の入れる部屋全部と離れ。茶室も掃除してもらおうか。離れは、お前たちの自由にしていいから」
 困惑するサクラをあっさり流し、ここが旅館等、公共施設の類ではなく、個人の家だと言う事を告げる。
「…ここはカカシの家なのか?」
「ん?知り合いのだぁよ。ずっと留守にしてるんで、その間の管理は任されてるけどね」
「知り合い?」
「そーう。頭の良い、豪快でインテリスケベな変なおじさん」
「へー。先生、後で探検して良い?」
 サスケの問いに含み笑いで答えれば、早くも感覚が麻痺したのか、好奇心を擽られたナルトが期待に満ちた目を向けてくる。
「良―いよ。その代わり、ちゃんと掃除するんだぁよ」
 苦笑すると、最低限の釘だけは刺した。


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