挨拶


「…悪いけど、イルカ先生借りるね?」
 ナルトを見送り、視線を戻すとイルカの横に座っている中忍に声を掛ける。
 子供の期待がある以上、多少の無理をしてでもイルカを連れて行く気はあるのだが、穏便に済めば楽である。
「は…はい!」
「どうせイルカのシフトは終わってますし!」
 殊更穏やかに言ってみれば、里一有名な上忍に言葉をかけられた受付担当たちが直立不動で応じ、早く帰るよう、イルカを促す。
 自分の評判を計算に入れての行動とはいえ、ここまで上手くいくと、逆に苦笑が漏れてしまう。
「すみません。イルカ先生。無理を言いましたか?」
「そんな。こちらこそお邪魔じゃないですか?」
「とんでもないでーすよ。アナタに来て頂ければ子供達が喜びます」
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて。今、支度して来ますね」
 礼儀正しく頭を下げ、ぱたぱたと職員室へ向かうのを見遣りながら、ゆったりと壁に寄り掛かる。その隙に声をかけようと画策する者も居たが、あっさり黙殺して愛読書を開く。内容の面白さもさることながら、その題名とジャンルで周囲が一瞬引いてくれる、実に有益な本だ。

「お待たせしました」
「じゃ。行きましょうか」
 身支度を整えて小走りに寄ってきたイルカに笑いかける。
 教材が入っているのか、抱えていた多めの荷物をさり気なく奪い取り、戸を開けた際には軽く背を庇うようにイルカを先に行かせ、自分は戸を閉めながら軽く会釈をして出ていく。あまりにも自然なエスコートに、受付所に残っていた者達の視線が入口に集中した。
「…はたけ上忍ってかっこいいよな」
「今、すっげー自然だったよな」
「羨ましい〜」
「…元担任っていいポジションよね…」
 惚けたように呟く忍達で、しばらくの間、受付所の業務は停止したらしい。


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