「お疲れ様です。報告書お預かりします」
「…あ…」
「はい。結構です。次の方どうぞ」
夕方の受付所。朝と比べると空いてはいるが、それでも昼間任務の報告が重なるのでそれなりの混雑を見せる。
演習場の草取りをやっていた八班も、この時間になって漸く終わったらしい。紅がのんびりと受付所の戸をくぐる。
「イールカせんせ。ただいま。はい、報告書」
「あ。紅先生。お疲れ様です。…はい。結構ですよ」
「ありがと」
どうせ出すなら顔馴染み…とばかりにイルカの列に並んで報告書を提出すると肩の荷が下りる。後は、外で待たせている子供たちに解散を知らせれば今日の業務は終了である。それでも、朝に感じた違和感の正体を見極めようとそれとなく受付所内を窺う。
「やほー。紅」
やはり、どこか違和感を感じるのだが、よく判らないまま踵を返そうとした刹那、壁際のソファから声をかけられる。
「アンコにハヤテ。珍しいわね。アンタ達が居るなんて」
「たまにはね〜」
「人待ちなんですよ」
「ふぅん」
含みのある笑顔を見せるアンコに興味を惹かれるが、このままここに居る訳にもいかない。手を振って出て行こうと身体の向きを変える。
「そろそろじゃない?」
「ですね」
「イルカ先生〜!ただいまだってばよ〜!」
紅が戸を開けようと手を伸ばす直前、弾丸のように近付いて来た勢いのある気配に、すい、と避けると、朝と同様、ナルトが嬉しそうに飛び込んできた。朝と違う所は、随分と薄汚れているところだろうか。
「お疲れ。ナルト」
「へへっ。俺ってば今日も大活躍だったもんね〜」
「…じゃ、アタシが見たのは幻術だったんだ〜?」
「あ。アンコねーちゃんにハヤテにーちゃん!」
自慢げに胸を張るナルトに、笑いを孕みつつ意地悪な言葉をかければ、振り返りざまににぱぁ、と全開の笑顔を向けられる。
「お疲れ様ですね〜。カカシさんはどうしました?」
ナルトの笑顔に釣られたのか、ハヤテがくすくす笑いながら問いかける。
「カカシ先生ならすぐ来るってばよ。さっきシカマルのとーちゃんに捕まってたから置いて来たんだってば」
「…ナ〜ル〜ト〜。上司置いてくなんてヒドいぞ〜」
嬉しそうに報告するナルトの背後に誰にも気付かれる事なくカカシが現れる。そのまま片手で羽交い絞めにすると、残った手で頭を乱暴に掻きまわす。
「お帰りなさい、カカシ先生。お疲れ様でした」
まるで親子のようなじゃれあいにくすりと笑うとイルカが労いの声を掛ける。
「ただーいま、イルカ先生。はい、これ」
ナルトを見下ろしていた顔を上げ、右目を弓形に細めると、報告書を手渡す。その姿に、紅の目がほんの少し細められる。
「お預かりします。…はい、結構ですよ」
「イルカ先生、あのさ」
「ん?」
報告書の確認を大人しく待っていたナルトがイルカの袖を引く。
「これから、カカシ先生のおごりで、皆で焼肉行くんだ!先生も行こうってばよ!」
「…え?」
「今日は子供達がかなり頑張りましてね。褒美に焼肉を食べさせる約束をしたんですよ」
「そうなんですか」
突然の誘いに戸惑っていると、上からフォローが入る。
「良かったらイルカ先生も如何ですか?それとも忙しい?」
「いえ、それはないです。でも…」
「へーぇ。良いな〜。アタシも行きたいな〜」
「…アンコ…」
割り込むようにカカシの背中に圧し掛かってきたアンコに疲れた声を出す。
「ねーちゃんも来るのか?」
期待に満ちた目でナルトが言う。
「ほら!田植え手伝ったし〜」
昼過ぎ、差し入れに来たのか邪魔しに来たのか判らなかった陣中見舞いの事を言っているのだろう。
「…ったく…。ハヤテも来るか?紅も」
「わ…私も?」
「どうせ外で子供達が誘ってーるよ。焼肉なんて大勢で食った方が美味いしね」
「…じゃ。行こうかな」
「ご相伴に預かります」
「すげ…。なあなあカカシ先生!俺皆に言ってくる!イルカ先生も絶対絶対来るってばよ!」
「はいはい。じゃあ、皆と先に行ってて」
「うん!」
予定外に大勢になった夕食に、ナルトが飛び跳ねて出ていく。それに紅、アンコ、ハヤテが続いた。
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