「…何?それで叱られたの?」
「う…うん」
「そりゃ、アンタが悪い。怒るに決まってるって!」
「…うー」
「あの方の一番嫌がる事なんですね〜」
昼休み。
アカデミーの中庭に、里で隠れて『木の葉の四華』と呼ばれる綺麗ドコロの内、三名が集っていた。特別上忍のアンコとハヤテ、それに中忍のイルカ。ここに上忍の紅が居れば完璧なのだが、それでも充分観賞に堪える。
ただし、それ程の華が揃っていても声を掛けるような強者はいない。華は観賞するだけで良いと言う意見が大多数を占めるからだ。
…知り合いならまだしも、イルカ以外の華、特にアンコと紅に声を掛ける度胸のある者は滅多に存在しない。
…怖ろしくて。
それはさておき、イルカはアンコとハヤテの呆れた視線に晒されて小さくなっていた。
呆れられている原因は、一昨日から昨日にかけてのトラップ任務の事。
とある人物に内密で里外任務に付くつもりだったのが、しっかりバレた挙句、機嫌を損ねてお仕置きされた事。
最終的には許して貰えたものの、イルカには酷く堪えた。
「…でも、最近全然休んでないし…」
「アイツが休んでるトコなんて、ここ十年以上、見たことないわよ」
「ある意味、火影様より多忙な方ですからね」
「だから内緒にしときたかったのに〜」
「無理!」
「ふ…二人して…」
内密にしておきたかった理由を言ってみても、速攻で否定される。
話題の中心人物は、外から見るとやる気も気力もなさそうに見えるのだが、実はかなりワーカホリックな人で、身内であればある程、完璧な休みを取っている姿を見た事はない。
イルカとしては、だからこそ、たまの休日にはゆっくりしていて欲しかったのだ。…にも拘らず、自分の所為で潰してしまった。これが落ち込まずにいられようか…という心境なのである。
「あの過保護な心配症に隠し事なんて通用しないわよ」
「素直に頼る方が逆に安心なんですね」
「もう。どーしてアンコちゃんもハヤテも、あの人の味方なの〜」
「だ〜って愛してるもん」
「…アンコちゃん、彼氏いるクセに」
「尊敬してますから」
恨みがましい目で見上げても、さらりと返されては堪らない。大体、この手の話題の時のこの二人がイルカの味方になってくれた試しがない。
それはもう、小さい頃から。
それぞれに恋人が出来ようと、絶対に変わらないランク付け。
重度のブラコン二人を相手にして勝てる訳がないので、イルカは黙って弁当の残りに目を向けた。
「あのねぇ、アイツが何でアンタを公表しないと思ってるの」
「普通の中忍で釣り合わないから」
「…違います」
心底呆れた口調で出された問いに即答する。
表向き、お互いに大した接点がないように見せているのは、エリート中のエリートである彼の人と、万年中忍の自分では本人同士は良くても世間的に釣り合いが取れていないからだと、イルカは本気で信じている。
本人以外には信じられないその認識に、残りの二人は頭痛を覚えてしまう。
「〜〜〜。もー、アンタは自分の価値を解ってなさ過ぎ!」
「え?」
「あの溺愛盲愛っぷりが他里にバレたらアンタが危険だからでしょーが!」
「…何で?」
怒鳴るアンコにきょとんとする。
たかが中忍の自分が任務以外で危険に晒されるとは思ってもみないらしい。無自覚を地で行くイルカに、アンコの握っていたダンゴの串がばっきり折れた。
「…公表して、自覚させてやりたい。どれだけ自分が重要人物なのか」
「…止めてください。叱られます」
呪詛でもかけるような口調で呟くアンコをハヤテが宥める。
「ハヤテだって思うでしょ?」
「…思いますけど、ダメです」
「二人とも、何の話?」
本気で首を傾げるイルカに、二人の視線がさり気なく逸らされる。そして、深い深い溜息。
「…アンタは。ココで何より大切な役目があるじゃない」
「アレばっかりは他の方には無理なんですね」
「…知ってる…もん。あの人にしか言ってない…よ」
「なら、それで良いじゃない」
「…うん」
諭すのを諦めた二人の言葉に素直に頷く。イルカにしか出来ない事が、ちゃんとあるのだ。下手な気遣いよりも、ずっと大切な事が。それを確認させる方が、無自覚を自覚させるより遥かに重要。
「…あ。もう、昼休み終わるね。ねえねえ、イルカ、今日のおちびちゃんはどこよ」
チャイムが鳴るのに反応してアンコが伸びをする。
「ナルト?隣村の庄屋さんで田植え」
「確かアスマさんのトコの子達も一緒でしたよね」
思い出したようにハヤテが確認する。
「うん」
「ほんと?じゃあ、秋道の坊やもいるのね!よし、ハヤテ。甘栗甘の団子買い込んで陣中見舞いに行こうよ」
「良いですね。私も午後は暇ですし」
大食いのチョウジと甘党のアンコは気が合うらしい。稀に甘味処で会うと、つい奢っているという。
「…邪魔しちゃダメだよ」
苦笑気味に言えば、悪戯っぽい笑顔を返された。
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