ONE


5

 戦闘班が宿営地に戻ってすぐ、カカシがテントへ姿を消す。程無くして真珠を伴うと、トラップ班を呼び集めた。
「テント借りるよ」
 本部テントを占領し、急ぎ打ち合わせに入る。自然、トラップに無関係の者が、先んじて説明を受けていた暗部の下、資材を取りまとめ始める。
 ある意味、完全に浮いた状態のアスマは、戦闘班に休息を命じ、自身は煙草に火をつけた。
「…気になるか?」
「…ならねぇ、って言ったら嘘になるな」
 真横に現れた暗部の言葉に複雑な表情を浮かべる。聞き覚えがある声に、接触した事のある暗部だとは思うが、その番号までは判らない。
「そうか」
「ま。他にも気になる事はあるんだが…。聞いて良いか?」
「答えられる範囲ならば」
「じゃ、聞くが…。暗部名ってのは、番号になってるのか?」
 カカシが来て、初めて耳にした暗部の個別認識。
 本名を明かせないのはともかくとして、なんとも味気無い。確かに、便利ではあるのだろうが。
「そうだ。暗部各中隊は2番から10番までで成っている」
「1番は?欠番か?」
「1番は隊長を表す。我等の隊長は何時如何なる場合も『銀』唯お一人」
 面の下で薄く笑う気配を感じる。その中に暗部の誇りのようなものを感じ、つい視線を向ける。
「そして、唯一の名を持つのはあのお二方のみ」
 柔らかな口調と共に、暗部らしからぬ穏やかな視線を打ち合わせ中のテントに向けたのが判る。

 銀と真珠。

 その二人にのみ、特定の名を許していると言う暗部とは、予想以上に闇に隠れた集団らしい。
「…じゃ…」
「あ。アスマ。二番。一緒に居たんだ。ちょうど良い。これから移動するから」
 更に質問を重ねようと口を開きかけた所でテントから出てきたカカシに声をかけられた。その腕の中には当然、カカシの宝が納まっている。
「終わったのか」
「真珠で一つ、後は4班に分けたから、暗部で護衛を二人ずつ付ける。アスマは俺と来る?留守番でも良いけど」
 後ろを指すと数人ずつで構成された小班に暗部が二人ずつ付き添っている。
「行くに決まってるだろ」
「二番は伝令」
「承知」
「昼前までに完成させる。じゃアスマ、後は宜しく」
「…おう」
 いくら専門外とは言え、号令だけを任されるのも辛いモノがある。諦めた表情で頷くと、全隊に檄を飛ばした。




「…大したもんだな」
「あんまり見ないで」
 トラップを仕掛ける素早さと的確さに感心すれば、不機嫌な声が戻って来る。
 一番の広範囲で煩雑な区域でありながら、おそらく、他の誰よりも一番早い。その手際に対する純粋な感想。見る限りでは、早々に担当区域は終わりそうだった。
「…見るも何もマントで隠されて見えねぇよ」
 見えるのはトラップだけだ。
 殺気を滲ませた気配に苦笑する。
「当然デショ。もったいない。…それより、ちょっと外すから頼むね。真珠。他を見てくるから、終わってもここに居て」
 言い置くと気配が消える。
 真実、他の区域を見に行ったのか、遠く微かに聞こえた指笛に呼ばれたのか、はたまた別の用件があったのかは判らない。
 どちらにせよ、残された者は会話もなく作業を進めるしかなかった。
「なぁ…。お前さん、カカシの何だ?」
 仕掛けが完璧に終わるのを待って、問いかける。カカシの居ないこの瞬間でなければ、声を掛ける事すら無理だ。それ程にカカシが大切に隠している存在。
 それを一時でも預けられた以上、軽い会話程度は許されたと考えるべきだろう。そう判断しての言葉。
「あんなカカシは初めて見るからな。純粋に知りたいだけなんだが」
 カカシに尋ねた時同様、深く詮索しようとは思っていない。あるのは純然たる興味。それが解ったのだろうか。
 刹那、ずっと無気質に感じていた相手の気配が甘い空気に取って変わる。
 ゆるりと振り向いた相手の指が小さく文字を作った。
「…マジかよ…」
 たった4文字で言い表された関係に、流石に天を仰いだ。


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